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2024.03.27

会津の工芸を支える『ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)』オーナー関さんご夫婦から見る会津モノづくりの未来。

地方で輝くモノ・ヒト・コトにスポットを当てた連載企画『地域創生ローカルヒーローズ』。今回お話を伺ったのは、会津の工芸を支え続けてきた『株式会社関美工堂』の関さんご夫婦。現在は『ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)』のオーナーとして、伝統工芸の継承や若手アーティストの活動支援など、会津のモノづくりをサポートしています。そんな関さんご夫婦の会津への想いと、その魅力とは。これからの未来へとバトンを繋ぐ、ローカルのバイタリティに迫ります。

株式会社関美工堂
(左)代表取締役/関 昌邦さん (右)関 千尋さん

会津に拠点を置く表彰楯メーカーの草分け、『株式会社関美工堂』。昌邦さんは宇宙開発関係の仕事を経て、3代目として家業を継ぎ、妻の千尋さんと共に事業を展開。会津塗りの漆器ブランド『NODATE』を手がけるなど、会津工芸の継承や若手職人の活動をサポート。その一貫として、2022年11月に『ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)』をオープン。


モノ・ヒト・コトが集まるローカルハブ『HHT』とは?

会津のモノづくり文化を支える『ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)』。『株式会社関美工堂』の本社兼倉庫を改装し、セレクトショップやカフェ、若手の会津漆器職人を支援するシェア工房、コワーキングスペースなどを備えた複合施設として、2022年11月にオープン。もちろん一般の方も自由に訪れることができます。ガレージの趣を活かしたインダストリアルなデザインの外観には、会津が生んだアーティストMHAK氏のペイントも。
「私たち『HHT』は、これからの時代に求められるローカルハブとして機能し、次世代に繋がるモノづくり・コトづくりを国内外に発信する場です。会津ローカルの暮らしの豊かさに共感する個人や企業が集まり、地域のコミュニティと強い絆を育みながら、日本のこころのバトンを次世代に繋ぎます」と昌邦さん。

1階にはカフェ併設のセレクトショップが広がる

さっそく『HHT』の中に入ってみると、その広さに驚かされます。吹き抜けの高い天井には鉄骨が剥き出しになっており、倉庫の面影を残しながらも、どこかあたたかみのある空間に。

1階に広がるのはセレクトショップ。ここでは『NODATE』をはじめとする会津漆器、 『HARAPPA』の会津木綿製品など、地域の伝統工芸によるグッズやウェアが多数。さらに最新のアウトドアギア/アパレルなど、独自の目線でキュレーションされたアイテムたちが、所狭しと陳列されています。
また地元食材を使った食品などもセレクトし、会津の衣・食・住を網羅。それでいてあくまでモダンさを失わないラインナップには、目を見張るものがあります。

また、1階にはカフェスペースも併設。熟練のコーヒーマスターによるハンドドリップコーヒーを味わえるほか、ベーカーやパティシエ、料理人とコラボした食事やスイーツも提供。見どころ満載の『HHT』をゆっくり楽しむ際に、ホッとひと息つけるスペースです。

若手職人のスタートアップを支援するシェア工房

『HHT』がただの商業施設にとどまらない理由が、1階の奥にあるシェア工房とシェアキッチンです。
シェア工房では、漆器の木地師、漆師、蒔絵師として自立を目指す若手職人たちのスタートアップをサポート。さまざまな木工機械を備え、これらを使って技術を研鑽し、独立を目指します。
「工房はガラス張りになっていて、作業の様子も見学できるようにしています。会津漆器を作る工程や職人さんの姿を目にすることで、会津の伝統工芸をもっと身近に感じらてもらえたら嬉しいです」と、千尋さんは話します。

一方のシェアキッチンでは、デッキオーブンや低温調理器など、さまざまな厨房設備を用意。スイーツや総菜、パンづくりなどができ、飲食店の加工食品開発もサポートしているとか。ジャムや調味料など、実際にショップで販売されている食品の中には、このシェアキッチンで作られたものもあるそう。

伝統とデジタルが融合するコワーキングスペース

そして2階に上がると、これまたズドーンと抜けた広いスペース。ここはシェアオフィス、コワーキングスペースとなっており、会議やシンポジウムなどにも利用できます。フロア中央には315インチの特大スクリーンとソファが設置され、月1回、映画の上映会も行われているそうです。

さらに2階スペースの一角には、『エプソン』との協業による『HHT PRINT Lab.』を併設。最新鋭のプリンターで、誰でも気軽にマウンテンボトルやTシャツなどに、お好みのイラストや写真をプリントすることができるんだとか。サポートスタッフが常駐しているので、初めてでも安心。
「ぜひ作品づくりやパッケージづくりに活用してもらいたいですね。1点からでも利用できるから、モノづくりはしたいけどハードルが高いと感じている方々にとって、自分の商品を作って世の中に出していくための最初の1歩になるといいな、と思っています」と千尋さん。

『HHT』が見据えるモノづくりと会津の伝統文化への想い

『HHT』の施設を見て感じたのが、職人やアーティストのモノづくりをサポートする姿勢です。ただ伝統工芸品や地域の特産品を販売するだけではなく、シェア工房や『HHT PRINT Lab.』を併設して、若手の活動を支援。そんなモノづくりに対する想いを、関さんご夫妻に聞きました。

千尋さん「新たな用途を生み出すことができたアウトドア漆器『NODATE』は、年齢国籍性別を問わず、多くの方にご支持いただけるブランドに育ってきました。ですが会津塗り全体で見れば、長年の需要低迷で生産基盤が弱まり、いまも深刻な後継者不⾜に苦しんでいます。これは非常に大きな問題で、どんなに新たなマーケットが生まれたとしても、新しい作り手が育たない限り、会津塗りという大切な地域文化が途絶えてしまうかもしれません。
中でも特に深刻なのが⽊地師です。会津塗りは完全分業制で製品を生み出しているのですが、塗師や蒔絵師を育てる学校はあっても、⽊を削ってカタチを作る⽊地師は、学ぶ場も支援する制度もないんです。 そんな⽊地師を筆頭とした後継者問題をなんとか解決したいとの想いで、いろいろな⽅にご⽀援ご協⼒をいただいて完成させたのが、この『HHT』のシェア工房なんです」。

-木地師さんの育成をメインに考えていたのですね。
千尋さん「会津に限らず、輪島、津軽、京都、香川など漆器の産地に行くと、みなさん木地師さんがいないと話されます。木地を作るには大型機械や専用の工具が必要になるので、自分で買いそろえるのは現実的ではありません。そこをシェア工房でサポートすることで、後継者不足の解決に繋げたいと考えています」。

-それでは最後に、『HHT』が今後目指すところを教えてください。
昌邦さん「これは当初からのコンセプトですが、『HHT』は人と人とが繋がる場所、つまり“ヒューマンハブ”を目指しています。例えばデジタルIT企業の人たちと、伝統のモノづくり職人。お互い接点がないような人たちがここで出会って、お互いに興味を持って何かを生み出していく。そんな人と人とを繋ぐハブとしての役割を果たすことが、これからもずっと日常になっていけばいいなと思います」。


ヒューマンハブ天寧寺倉庫(HHT)
住所:福島県会津若松市天寧寺町7-38 MAP
URL:https://tenneijisoko.com/


Credit
Photo_Shuhei Nomachi
Text_Masahiro Tsuda
Edit_Satoshi Yamamoto


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