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2023.12.25

刃物のまち関市から世界へ。
日本初、超硬合金製の包丁『KISEKI:』の物語

ドイツのゾーリンゲン(Solingen)、イギリスのシェフィールド(Sheffield)と並び、その頭文字から『刃物の3S』とも称される刃物作りの街、岐阜県関市。そんな関市で120年以上の歴史を持つ『福田刃物工業』が手掛けた包丁『KISEKI:』に迫るべく、同社を訪問。その生産現場が見学できる新たな試み『KISEKI:ツアー』に参加しつつ、そこに秘められたストーリーを紐解きます。

『福田刃物工業』から誕生した『KISEKI:』とは?

『福田刃物工業』は、日本で初めてポケットナイフの量産を行った『福田製作所』(1896年創業)が前身。1921年には日本初の紙断裁包丁の製造に成功し、長年、工業用刃物などを中心に製造を行っています。その『福田刃物工業』が2022年11月に販売したのが、国内初となる超硬合金の包丁『KISEKI:』。クラウドファンディングでは4000万円を集め、わずか5日間で完売してしまったほどの逸品です。

−そもそも『KISEKI:』を立ち上げたきっかけは?

「誰もやったことがないことをやりたい! という想いで、僕を含む3人のエンジニアを中心に、2020年から開発をスタートしました」。そう話すのは、同社技術部長であり『KISEKI:』ブランドマネージャーでもある福田さん。
ちなみに福田さんは技術部長というバリバリのエンジニアでありながら、まったく経験のない『KISEKI:』のマーケティングやプロモーションにも挑戦。ゼロから学びながら市場を創造したことが評価され、<マーケター・オブ・ザ・イヤー2023【地方編】>の大賞にも選ばれたすごい人。

福田刃物工業 取締役 技術部長/KISEKI: ブランドマネージャー 福田恵介さん

「弊社には特殊工具や工業用機械刃物の製品製造のノウハウや技術があり、さらに熱意を持つ仲間もいます。そんな背景を活かして、よく切れるだけでなく切れ味が持続する包丁を作りたいと考えました。
その結果『KISEKI:』には、工業用刃物に使用する特別な素材である超硬合金を採用することに決めたのですが、その反面で非常に硬いというデメリットがあり、通常の包丁作りのやり方はまったく通用しない。
そんな中で、何度も失敗を繰り返しながら、試行錯誤の末にオリジナルの製造方法を確立。開発期間に2年を費やしましたが、お陰でステンレスや鋼とは違う、まったく新しい包丁を作ることに成功したんです」。

そうして生まれた国内初となる超硬合金の包丁『KISEKI:』。そのネーミングには、圧倒的な切れ味を誇る“奇跡の包丁”であること、仲間たちとの“挑戦の軌跡”、関市から発信することに由来した“輝く関”の意味が込められているそう。

奇跡の包丁の製造現場を体験・見学する『KISEKI:ツアー』に参加

これまでの包丁の常識を覆す軌跡の包丁『KISEKI:』。それを実現するための技術力の高さを少しでも多くの方に知ってもらうための『福田刃物工業』の新施策、『KISEKI:ツアー』に参加してきました。

−エンジニアリング技術が光る『KISEKI:』の生産ライン

こちらがすべての基ととなる特殊素材、超硬合金。鉄の2倍近い質量があり、磁石はつかず、錆びにくいのが特徴の高価な素材です。
「三徳包丁をつくるための縦50mm、横280mm、厚さ2mmの板は、高圧のプレス機で包丁の形に打ち抜くと割れてしまいます。またレーザーによる切り抜きでさえ求める精度に及ばないため、『KISEKI:』では、1/1000mm単位の精度が出せるワイヤーカットでの切り出しを採用しています」と教えてくれたのは、ディレクターの古池晃さん。

「超極細のワイヤーに電流を流し、その熱で溶かしながら切断するワイヤーカットであれば、超硬合金を変形変質させることなく、一度に40枚を切り出すことができます。ですが、それに要する時間は約10時間。生産効率としては、すこぶる悪いです(笑)」。

包丁の形に切り出された超硬合金は、特殊な研磨機によって1枚ずつ、両面を約30分かけて研ぎます。ここで刃つけが施され、ようやく刃物の姿へ。
ちなみに本ツアーでは、参加者に研磨機など各種機械のスイッチを押させてくれるサービスも。
超硬合金を包丁に仕上げるための創意工夫、大事な工程を間近で見ることができ、かつその工程にほんの少しでも関わることで、よりプロダクトへの興味が掻き立てられます。

また『KISEKI:』のこだわりは刀身だけでなく、手で握る柄の部分にも込められています。使用しているのは、地元岐阜県産の天然木、ミズナラ、ヤマザクラ、ブナの3種類。それぞれ質感や表情が異なるため、自分の好みの天然木を選ぶことが可能。握る度にユーザーの所有感が満たされること請け合いです。

−未経験の木材加工にも果敢にトライ!

「弊社としては、木材の加工は初めて。しかも超硬合金は穴を開けるとそこから割れてしまう懸念があるので、通常の柄の形状は使えない。柄の構造をゼロから考え、安全に固定できるような特殊な形状にしなければならなかったので、実はかなり苦労した部分でもあります」と、話してくれたのは、広報担当の高野里奈さん。
「実際に木材から柄を削り出すには、こちらの5軸マシニングセンターを使っています。また安易に接着剤のみで固定するのではなく、高精度の射出成形された樹脂モールドを独自で開発。長く使えることに加えて、デザインのアクセントにもなっています」。
単なる飾りではない柄。使う人と地元への想いが細部にまで込められています。

美味しく切れる包丁の理由と魅力

工場をひと通り見終わり、本社屋の2階へ移動。 ここで改めて完成品を見ると、その美しさに惚れ惚れ。ちなみに『KISEKI:』の包丁は、重さ約140gと軽量で持ちやすい。これはテストをする中で「160gの包丁は女性にとっては少し重い」という意見を受け、柄につけていた重りを約20g削減。さらに重心を中央寄りに設定し、力のある男性でも使いやすいようにデザインされています。

そんな『KISEKI:』の切れ味を、実際に体感できる試し切り体験もあり。用意されたのは、ニンジン、リンゴ、玉ねぎなどの野菜類。抵抗なくスッと切れる感覚に、取材スタッフ一同「おぉ〜」と感心。すると「じゃあ次はこれを切ってみてください」と、トマトの登場。やってみると、指を添えなくてもスぅ〜っと刃が入っていく! これには全員驚愕。『KISEKI:』の本領を体験することができました。

「包丁は基本的に、切ったモノの刃離れが良い包丁と、刃に吸いつくような包丁の2つに分かれます。どちらも試したうえで『KISEKI:』は、刃に吸いつく形状を選びました。そうすることで、食材の細胞が傷つきにくくなるんです」と、福田さん。

−食材までも美味しくしてしまう奇跡の切れ味

続けて福田さんは、「試作を繰り返す中で、よく切れるだけではなく、切った食材が美味しくなることも発見しました。試作品を何人かの料理人に使ってもらったんですが、刻んだ玉ねぎの角が残っている、リンゴの切り口が変色しづらい、キャベツが甘く感じる、などの声をいただいたんです。
だったら、ということで第三者機関で味覚センサー試験を行うと、数字上でも美味しさが違うというデータが出てきました。図らずして、リアルに食材が美味しくなる包丁ができてしまったんですよね」とも。

野菜や果物だけでなく、肉や魚といった食材も組織を極力壊すことなく切ることができる『KISEKI:』は、料理の幅を広げる&料理が楽しくなる革命的なプロダクトであり、まさに奇跡の包丁と言えるのかもしれません。

これからの『KISEKI:』ブランドの展望

熱い想いと高いエンジニアリング力により完成する『KISEKI:』の三徳包丁は、定価34,650円。マスプロダクトの包丁としては高額な部類です。でありながら『KISEKI:』は、様々なメディアや品評機関から高い注目を浴び、実際に多くのユーザーから好評を集め、その売上数を伸ばしている。そんな世の中の反応を踏まえ、今後は三徳包丁以外にも、多様なプロダクト展開と販売を予定しているそう。

「1stプロダクトである三徳包丁に加えて、メンテナンスに必要なダイヤモンドの研ぎ石、小ぶりで使いやすいペティナイフもつくりました。特殊な素材である超硬合金の包丁を長く愛用していただけたら嬉しいです」と、話す福田さんの野望は、まだ続きがあります。

−世界を目指す『KISEKI:』のこれから

「まずは『KISEKI:』をグローバルブランドにすること。岐阜県・関市の刃物づくりの歴史を、国内外の多くの人に知ってほしいんです。そして今回みなさんにも体験していただいた『KISEKI:ツアー』を初め、ものづくりの現場を実際に見て体感してもらうためのコンテンツを、もっともっと充実させたいと思っています。例えば、廃材を使ったポケットナイフの製作など、ワークショッププログラムも取り入れたいと考えています」。

世界的な刃物産業のメッカ岐阜県関市から、これまでの包丁作りとは一線を画するシステムとテクノロジーで、新しい挑戦に邁進するブランド『KISEKI:』。
近い未来、きっと世界中の人々が知ることになるであろう、これからのグローバルブランドの発展が楽しみです!


KISEKI:(福田刃物工業
住所:岐阜県関市小屋名353 MAP
URL:https://kiseki-products.jp/
KISEKI:ツアー:https://kiseki-products.jp/tour/


Credit
Photo_Yuki Araoka & Satoshi Yamamoto
Text_Sayaka Miyano
Edit_Satoshi Yamamoto


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