2023.10.27
地方と都市を結ぶため、全国津々浦々のローカルスポットにクローズアップする本企画。今回は、プロサウナー水風呂ちゃんと巡った秋の伊豆巡りの中から、新たな伊豆の銘品として知られるクラフトビールにフォーカス。エリア屈指の大規模ビール醸造所、『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』を深掘りします。
目次
伊豆の小京都とも呼ばれる修善寺の主要地域から、少し離れた田園地帯。雄大な狩野川に抱かれた自然あふれるこの場所に、突如としてあらわれるアメリカナイズされた立派な建物。
ここが今回のお目当て、『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』。今やクラフトビールのメッカとしても知られる静岡県の中でも、屈指の規模感を誇る大型ブルワリーです。
その広大な敷地には、ビール工場、タップルーム、そして自社農園にキャンプ場までも併設。そんな多角的なブルワリーを展開するクラフトビールカンパニー『ベアードブルーイング』を夫婦二人三脚で立ち上げた、ベアード さゆりさんにお話を伺います。
「この『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』は、マネージメント担当の私と、チーフブルワーである夫のブライアンで運営する〈ベアードビール〉の専門工場として、2014年に設立しました。それまではずっと、初めて自分たちでビールを作った2001年から拠点としている沼津で作っていたのですが、少しずつ生産量も増え、そろそろ本格的な工場を増設しようということになり、すべての生産機能を移設したんです。だけど実際に場所を探し始めてからここを見つけるまで、3年もかかったんですよ(笑)」。
ば、場所を探して3年!? そう聞くと驚きですが、その頃すでにベアードご夫妻は、とても大きな理想を描いていたそう。それが、すべての原料を自分たちの手で作ること。
「一般的にビールって、工業化されたシステムの中で大量生産されているイメージですよね。でも本来は、農業の一環であるはずなんです。私たちはそんなビール本来の姿を自分たちの手で実現し、お客様にも自然の恵みを体感してもらいたいと思っています。原料の栽培からビールの醸造、そしてお客様へのご提供まで、すべてをワンストップで完結させた、100%伊豆産の〈ベアードビール〉を作りたい。ここはそんな私たちの理想の未来を描くに相応しい、ビールの楽園のような場所なんです」。
敷地内に併設された農場では、ホップの他、フレイバーに使用する果物なども無農薬で栽培中。「まだそこまでたどり着けていませんが、いずれは大麦も栽培して、モルトも自社で生産するのが目標」とさゆりさん。時期が合えば、ホップの収穫体験ツアーも実施しているそう。
建物3階は、できたてホヤホヤの〈ベアードビール〉がいただけるタップルームに。ちなみにタップとは、ビールサーバーの注ぎ口のこと。そしてここ『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』では、定番銘柄12種類に季節限定の銘柄8種類、計20銘柄分のタップを完備しています。
「季節限定の銘柄は、年間で26種類が基本として決まっています。それを時期に応じて順々に醸造しご提供しているので、いつ来ても何かしら新しいビールが召し上がっていただけます。タップ数も多いので、ビールが苦手な方でも大体お好みの銘柄に出会えるという点も、うちの強みですね」。
小グラスで少しずつ試飲ができる飲み比べセットもあり。ビーフジャーキーならぬ鹿肉ジャーキーを肴にいただきました。
アメリカの大学のような建物外観と同じく、細部までしっかりとデザインされた内装のしつらえにも感心。「ハードの部分では建築士さんに入っていただきましたが、外観の色や内装の雰囲気、什器の選定など、ソフトの部分はすべて私たち夫婦でデザインしました」。
オリジナルの刺しゅうを施した〈レッドキャップ〉のワークシャツやキャップなど、各種スーベニアの精度も極めて高い。
壁には〈ベアードビール〉のボトルラベルに採用されたアートワークのキャンバス画を展示。手がけるのは、夫妻の友人でもあるグラフィックデザインアーティスト、西田栄子さん。
「私たちのこだわりは、なるべく加工をせずに、自然の味をそのまま活かしたビールを作ること。だからモルトもすごく選別していますし、ホップも生ホップしか使っていません。
もちろん製法にもこだわっていて、例えば、普通は炭酸ガスで人工的に発泡させるんですが、うちの場合は、人工的な炭酸ガスは一切使っていません。自然発泡という製法なんですが、発酵を終えてボトルや樽にビールを移すタイミングで、もう一度糖分を加えて二次発酵させ、そこで発生する炭酸ガスを液体に閉じ込めるんです。シャンパンと同じ製法ですね。だから喉越しもすごくなめらかだし、お腹にもたまりにくくて、飽きずに飲み続けられる。
〈ベアードビール〉は、そういった私たちの信念と自然の恵みの結晶なんです」。
さゆりさんから貴重なお話を伺った後は、一般の方でも予約制で受け付けているという、ビール工場の見学ツアーに参加。同行してくれるのは、若きブルワーの榎本さん。基本設計から各設備まで、すべてオーダーメイドで作り上げた自慢の工場内を案内していただきます。
こちらのエリアでは、砕いたモルトをお湯と混ぜて、60〜70℃で煮込んでおかゆ化し、デンプンを糖分に変換。この際の温度が1℃でも変わるとまったく違うビールになってしまうそう。さらにこれをろ過して麦汁にした後で、ホップを加えて苦味と香りを抽出する。
またさゆりさんも言っていたとおり、ホップはすべて生の状態。こちらのホップはアメリカ産で、柑橘のようなフルーティーな爽やかな香り。
ホップから匂いと苦味が抽出された麦汁は、こちらのどデカいタンクで酵母と混ぜて発酵させます。その最大容量なんと、6000L×4本+12000L×6本で、計96000L! 伊豆屈指の大規模ブルワリーの名前は伊達じゃありません。
発酵が終わったら、貯蔵タンクに移して一定期間寝かせてから、ボトルや樽に充填。その際に再び糖分を加えて二次発酵させ、自然発泡で炭酸をつけてから出荷される。
この日はちょうど蜜柑ビールの仕込み中。甘みは酵母の餌になってしまうため、あえてまだ熟す前の酸味の強い状態で使うのがポイントだとか。
敷地内には、木漏れ日が心地よい林間キャンプサイトも併設。可能な限り自然製法にこだわる〈ベアードビール〉を起点に、自然との共存をより強く体感してもらいたいという思いから作り上げた、『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』にとって、そしてご夫婦にとって、とても大切なコンテンツです。
敷地に面する狩野川は、まさに清流といった雰囲気。鮎釣りの名所としても有名なので、釣りとキャンプとクラフトビールの合せ技、なんて贅沢な遊び方も可能です。
数ある伊豆に拠点を置くクラフトビールブルワリーの中でも、随一の規模感と多角的な展開力を誇る『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』。
そこはただ大きいだけでなく、ビールに魅了されたベアードご夫妻の情熱とこだわりが凝縮された、まさにビールの楽園。
奥様のさゆりさんをもってして「夫はビールに人生をかけているような人」という魂のブルワー、ブライアン・ベアードさんが手掛けたビールを、みなさんも一度味わってみては?
ベアード・ブルワリーガーデン修善寺
住所:静岡県伊豆市大平1052-1 MAP
URL:https://bairdbeer.com/ja/brewery-gardens-2/
Credit
Photo_Shuhei Nomachi
Edit & Text_Satoshi Yamamoto
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