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2024.03.15

みんなのための、うつわを作り続ける。
島根県松江市の焼き物窯『袖師窯』の魅力をレポート!

全国各地の伝統工芸に注目し、その魅力を発信する連載企画、「ボクとワタシの伝統工芸」。今回訪れたのは、島根県松江市の焼き物窯『袖師窯』。築100年以上もの歴史を誇る木造の作業場にて、食器を中心とした “民藝” としての日用品を作り続けているこちらは、なんと1877年(明治10年)に創業されたのだとか。ここでは、そんな『袖師窯』代表の尾野さんにお話を伺い、その特徴やこだわりについて語っていただきました。

朴訥とした、あたたかみ。『袖師窯』のうつわたち

1877年に開窯して以来、140年以上もの時が経った今日に至るまで、真摯に焼き物を作り続けてきた『袖師窯』。1920年代に思想家の柳 宗悦らが提唱した『⺠藝運動(手仕事で生み出された日常づかいの雑器に美を見出そうとする運動)』の影響を受け、“⺠による、⺠のためのうつわ” としての「⺠藝品」を、ここ島根県松江市の地にて淡々と生み出してきた窯元さんです。

そんな袖師窯が作る焼き物には、どこか朴訥とした、素朴で健やかなムードが漂っているような気がします。代表の尾野さんが話してくれました。「創業の頃から現在に至るまで、変わってきたことも多いですが、“成型から絵付け、焼きまでをすべて手作業でおこなう” ということは、ずっと変わっていませんね。使っている材料も、基本的には昔からほとんど変わっていないんです」。

使い続けることで、うつわは “完成” してゆく

「まるで我が子のように」とは、モノを生み出す人々に対する形容として、常々どこにおいても使われる言葉。愛が込められたあたたかな目線で、子を扱うがごとく優しい手つきで、作品たちに触れてゆく。そんな作り手の方々には、これまでたくさん出会ってきました。ただ尾野さんは、どことなくそうではないような、そんな気がしてしまうのです。

「もちろん、自分たちが手がけるうつわには、特別な感情をおぼえます。ただ、それだけじゃないんですよね。そもそも一般家庭で使われるような“民藝品”の作り手として思うのは、やはり『使う人あってのうつわである』ということなんです。
たとえばこちらのカップは、釉薬によって表面がガラス質になっています。だけど日々使っていくうちに見えない傷がたまっていって、徐々にツヤが落ち着いていく。細かいヒビが入り、そこに水分が侵入していく。そうして、だんだん色が変わっていくんです。
つまり、そこで初めて完成する、と言っても過言ではないんですよね、わたしたちが作っているうつわというものは。
生活様式にもとづいた汚れや傷がついてこそ、初めて完成する。だからこそ、どんどんガシガシ使っていただきたいなぁ、と感じていますね。“民藝”とは、そういうものなんです」。

尾野さんが発する言葉のひとつひとつは、無駄がなく、過剰な愛情もなく、それでいて、なぜか妙にあたたかくて、穏やかでした。無理矢理にかこつける訳ではありませんが、それは、『袖師焼き』のうつわたちにもよく似たものであったようにも感じます。朴訥だけれど、決してぶっきらぼうではない。凛とした雰囲気を携えながらも、柔和でしなやか。そんなムードが感じられました。

尾野さんの粋な計らいで、作業場へ……!

ギャラリーでの取材を終え、尾野さんがひと言。『実際にうつわを作っている様子も見て行かれますか?』と。取材陣一同、ワクワクしながら工房へと向かいます。

工房では、4人の職人さんが作業中。ロウと灯油を混ぜた液体を高台(うつわの脚)に塗り、釉薬がかからないように加工を施している職人さん。陶器製のお菓子型を作っている職人さん。それぞれが分業制で、自らのお仕事をおこなっているのだそう。
その眼差しは、当然ながら真剣そのもの。それでも時おり顔を上げては、「いらっしゃい」と微笑みながら、優しく歓迎してくれました。

と、ここで尾野さんからのさらなるひと言。「せっかくだから、ロクロでも回しましょうか。今日は作業工程の都合で地味な作業ばかりですからね」。
そういうと、おもむろに粘土を取り出し、“菊練り”と呼ばれる作業で粘土から空気を抜く尾野さん。”菊練り”が済むと、ロクロにセット。昔ながらの蹴りロクロを使用し、まさに卓越した職人技で、あっという間に中深皿を成形してしまいました。
ちなみに『袖師窯』では、粘土も地元の土を使っているそう。しかも業者から買うのではなく、自分たちで採土しているというから驚きです。

最後は窯場を案内していただき、楽しかった工房見学も終了。普段は足を踏み入れることができない場所に感動している取材陣に、尾野さんはこんな言葉で締めくくってくれました。
「先ほどの粘土もそうですけど、“長石”と呼ばれる釉薬の原料石も、そこに混ぜ込むワラ灰やモミ灰も、その多くが松江産。そういう意味では、可能な限り地元の材料で賄うということも、『袖師窯』のこだわりと言えるかもしれませんね。
そんな地元の材料をさまざまな組み合わせで試行しながら、あくまで使用する方のことを思い描きながら、誰もが使いやすいうつわを作陶する。
そうやって地元に根づきながら、“みんなのためのうつわ”を作ることが、『袖師窯』にとってもっとも大切なことなんだと思います」。

伝統工芸としての“民藝”は、まさしく“民のための工芸品”。そんな先人たちの想いを受け継ぎながら、地域に寄り添い、人々の生活に寄り添い続ける『袖師焼』。きっと、“あなたのため”の逸品が見つかること請け合いです。


袖師窯
住所:島根県松江市袖師町3−21 MAP
URL:https://www.facebook.com/sodeshigama



Credit
Photo_Shuhei Nomachi
Text_Nozomu Miura
Edit_Satoshi Yamamoto

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