2024.05.13
ハイパー干物クリエイターとして知られる藤間義孝さんは、熱海を拠点に活動している干物の名人です。彼が手がける干物は、1度食べたらこれまでの干物観が変わると評判で、現在は通販で1年半待ちになるほどの人気ぶり。
今回は、そんな干物が作られる生産現場に伺い、干物に対してのこだわりから藤間さんのストーリーまでを紐解きます。
目次
古くから干物製造が盛んな静岡県熱海市綱代にある『干物屋ふじま』。いつもは静かな港町ですが、店主の藤間さんの作る干物が別格の味わいと、県外から足を運ぶ常連客も少なくありません。そんな彼が干物作りに携わったのは、家業ではなく、若い頃、知り合いに手伝って欲しいと言われたのがきっかけでした。
「友達が営む干物屋の製造職人さんが事故にあい、人手不足で僕に声をかけたようです。最初はお手伝いのつもりでしたが、実際やってみるとすごく奥深くて。もっとこうしたら? という自分なりの提案をするようになりました。もちろん継承されてきた店の味を損なわない様に気をつかいながら」。
同店に10年間務めた藤間さんは、2014年に独立。現在の『干物屋ふじま』をオープンします。
独立して間もない頃、ふと中学生だった娘さんに「お父さんの職業って何?」と聞かれた藤間さんは、とっさの思いつきで「ハイパー干物クリエーター」と答えたそうです。
「普通に答えると、水産加工業または干物屋でしょうね。それでは面白くないからと、悪ふざけで答えたものだったんです(笑)。当時、高城 剛さんがハイパーメディアクリエーターと名乗っていたのが頭の片隅にあったので」と、たまたまの発言が肩書きに。しかし、自らをハイパー干物クリエーターと位置付けたことで「普通の干物は作らない」と自身を鼓舞することになったと語ります。
またこのキャッチーな名称が多くの人々の目にも止まり、取引先からの連絡や、メディアからの取材も増えたそう。「自分は老舗とかではなく後発。だからこそ、ふざけて名乗り始めたものだけど、知ってもらえるようなフックになればと思い、積極的に使っていきました」。そうして藤間さんは、干物業界に新しい風を吹き込みます。
話題を呼んでいるのは、そのキャッチーな肩書きだけにあらず。藤間さんが独自に考案する日本酒や魚醤など、日本の伝統的な発酵技術が活かされた酒や調味料を使って干物を仕込む点も、大きく注目されています。
「干物を実際に食べてもらえる場所、また日本酒が好きだったので、干物屋を開業してまもなく、干物と日本酒の居酒屋をオープンしました。せっかく日本酒を扱うのだから、差別化の意味も込めて干物作りにもリンクできればと思って。いざ、仕込みに日本酒を使ってみたら、いつもと違う仕上がりになったんです。照りがよかったり、魚と塩では補えない旨味が出せたり。そのときに干物として完成度が上がった感じがしましたね」。
写真は、従来塩水だけで魚を漬けるところに、日本酒をブレンドしているシーン。使っているのは、静岡県掛川市の銘酒『葵天下』純米吟醸。「お店でお客さんが喜んでくれるダイレクトな反応が嬉しいからこそ、探求が楽しいんですよね」と藤間さんは笑う。
ただ店が軌道に乗るまでの最初の5年間は、朝に干物店、夜に居酒屋、深夜にコンビニなど、寝る間もなく働いたそうです。その隙間には、東京の飲食店に足を運び、食の勉強も。伺う店には、お土産として自身の干物を持参したという。
「セールス目的ではなく、勉強させてもらうので名刺代わりに干物を。それで食べてもらったら、数日後にランチに出したいと連絡をいただいて。そこから都内での口コミが広がったと思います」。人気の火付けは、実は東京から。中野にある『青二才』という、日本酒居酒屋の名店だ。今では互いに店を訪れるほど仲がいいそう。
ここで藤間さんから干物作りのポイントを教えていただきました。本日の仕込みは、ビンチョウマグロや金目鯛、鯖など。ほかにものどぐろや海老、鰻といったレアな干物のラインナップもあり。
①塩水と日本酒のブレンドに漬け、魚種・魚体によって時間を細かく設定する
まず魚の頭や内臓を落とし、血抜きをして下処理。天然塩と水と日本酒に魚を漬けて、個体ごとにベストな塩分濃度に。十分に味が浸透したら、魚を水で洗って網に並べていきます。
②旨味が増幅する特製ダレを塗る
干す前に、いしり醤油ベースにみりんを効かせた特製ダレを塗るのも、藤間さんならではの製法。「この特製ダレは、天然の味の素みたいな感じですね。アミノ酸をたっぷりと含んでいて、塗ることで旨味のギアがひとつ上がるんです」。
③昔ながらの天日干し
現在は安定的な製造が可能な機械乾燥が主流ですが、藤間さんは昔ながらの天日干しにこだわります。「自然に仕上げた味や風合い、香りを楽しんで欲しくて。手間ひまかけた天日干しは、定番の魚はもちろん、臭みのでやすい青魚でさえ、香ばしくなるんです」。
④マイナス30度で急速冷凍する
急速冷凍することで美味しい状態を維持できるのはもちろんですが、藤間さんいわく、冷凍することが最後の味付けだとか。「前に冷凍せず干物を食べたら、味に輪郭がなかったんですよね。冷凍することで旨味がさらに凝縮されることから、自分的には保存方法であり、最後の味付け作業だと思っています」。
通販は1年半待ちですが、熱海駅から車で10分の渚町にある干物ダイニング『yoshi-魚-tei』に行けば、藤間さんの干物料理が味わえます。この日いただいたのは、店いちばん人気の〈ビンチョウマグロ大トロ天日干し定食〉と〈アコウダイみりん干し定食〉。ほかにも約20種類もの豊富な干物メニューから、板前さんが作る一品料理までが揃います。
「日本全国で干物はありますが、熱海のソウルフードである干物を、“昔の保存食”ではなく“ごちそう”として全国、若い世代にも広めていきたいですね。自ら焼いたり、細かく骨を取り除いたり。そういうひと手間を費やしてでも食べたいと思っていただけるような、魅力ある干物を提供することが自分の使命だと思っています」と熱い思いを語ってくれた藤間さん。
ハイバーなのは肩書きだけじゃありません。ひと手間もふた手間も加えたその創意工夫は、食べる人を必ず楽しませてくれるはず。食べればきっと“なんじゃこれは‼︎”という驚きが走る絶品の干物を、みなさまもぜひご賞味ください。
干物屋ふじま
住所:静岡県熱海市銀座町7-12 MAP
URL:https://www.himonoya-fujima.jp
Credit
Photo_Taijun Hiramoto
Text_Takuya Kurosawa
Edit_Satoshi Yamamoto
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