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FOOD 食事

2025.07.02

有馬温泉の丘の上にエリア待望の居酒屋が誕生。昭和レトロな居酒屋『紀龍』を訪ねて

全国各地に散らばる地域のグッドスポットを、編集部の視点で紹介する連載企画『ローカル魅力発見旅』。今回の目的地は、日本三名泉のひとつにも数えられる兵庫県有馬温泉。かつて東大阪で愛された人気店『輝竜』をルーツに、『大倉クラブ&ホテルズ』のニューブランドとして装い新たに誕生した居酒屋『紀龍』にクローズアップします。 お店の雰囲気から自慢のお料理、そしてそれを手掛ける料理長へのインタビューまで、まるっとその魅力をお届け。

静かな高台にできた、ちょっと気になる夜の憩い場

『ザ グラン リゾート有馬』の1階に、知る人ぞ知る居酒屋が誕生

舞台は、有馬温泉の街を見下ろすように佇む高台のリゾートホテル、『ザ グラン リゾート有馬』。その施設内に、去る2025年5月17日、宿泊客以外も利用できる居酒屋『紀龍』がオープン。夜間になると、徒歩15分ほどの駅前まで下らないと開いているお店が見当たらない同エリアにおいて、これはまさに朗報。観光客にとっても近隣ホテルで働くスタッフたちにとっても待望となる、夜の憩いの場が誕生しました。
目印は、敷地入口に掲げられた大看板。シンプルながらも目を引くグラフィックデザインは、ちょっとしたランドマークのような存在感を放っています。そして中に入ると、赤いカーペットがスッと伸びるアプローチへ。ホテルロビーの奥にある居酒屋というギャップもまた、知る人ぞ知る感があってそそられます。

懐かしさと今っぽさが同居する、ネオ昭和空間へようこそ

暖簾をくぐるとそこには、懐かしいけど新しい、なんだか不思議な空間が。全体的にはレトロな雰囲気なのに、照明や装飾の細部には現代的なセンスが光る。まさにネオ昭和居酒屋といった店内に、撮影スタッフも自然とワクワク。
店内の注文は、最新のタッチパネル式自動販売機で金券を購入(200円×5枚〜)してオーダーするシステム。まとめ会計にありがちな、「金額えぐっ!」なんてこともないので、飲んべえたちも安心です。またドリンク類の提供はセルフ仕様。特にビールとハイボールは自らサーバーで注ぎ入れるスタイルで、オカワリも気軽だし、単純になんだか楽しい。このちょっとした遊びの感覚が、大人の居酒屋タイムにピッタリ。肩肘張らないラフな空気感は、誰でも気軽に利用できること請け合いです。

愛され料理人が紡ぐ、唯一無二の味と人柄

東大阪の人気居酒屋『輝竜』店主が挑む、有馬の地での再出発

料理を手がけるのは、身長190cm・Tシャツは7Lサイズという堂々たる風格の金さん。東大阪で元祖『輝竜』を営んでいた、体も心も超ビッグな愛され料理人です。在日コリアン3世として子どもの頃から慣れ親しんだ韓国の味と、日本での経験を通して培ってきた居酒屋文化とを掛け合わせた独自の味作りは、まさに唯一無二。〈スンドゥブ〉や〈チヂミ〉など、伝統的な韓国料理の中にもどこか家庭的な温もりを感じるのは、きっとそのルーツと人生の歩みに理由があるのかもしれません。
そもそも金さんがこの地にやってきたのは、経営者兼料理人としての将来を考えていた際に、『HESTA大倉グループ』のオーナーから声をかけられたことがきっかけ。家族への想いや責任、そして料理人としての意地が重なり、満を持して『大倉クラブ&ホテルズ』の一員として新たな挑戦をスタートさせたそう。「お客さんとの距離が近い空間が好きなんです」と語る金さんの眼差しは、厨房の奥からでもあたたかく、お店全体の空気感にもじんわりとにじみ出ています。

看板の手羽唐にチュクミ風鉄板鍋! 金さん流のわいわいコース

この日ご用意いただいたのは、お店自慢のコース料理〈紀龍 わいわいコース〉。韓国料理をベースとしつつも、居酒屋らしさと金さんの独自性が効いた、ここならではのラインナップに。
中でも特に、塩とタレが選べる〈紀龍の手羽唐〉は、東大阪時代から続く不動の看板メニュー。衣のザクザク感とジューシーな肉質、そしてニンニク香るパンチの効いた味わいは超絶美味で、撮影スタッフの間でも1番人気だった逸品です。
さらにもうひとつの激推しが、写真3枚めの〈紀龍のチュクミ風鉄板鍋〉。ここ数年の間に、本場韓国でもここ日本でも激バズリした料理〈チュクミ〉で使われるイイダコを、より安定的に入荷可能なイカに替えたオリジナルメニューです。ちなみにコース1人前の場合、鍋料理は写真4枚めの〈鶏チゲ鍋〉も選択可能。トレンドかベーシックか、これは大いに悩むところ。
そのほか、金さんが自ら漬ける〈自家製キムチ〉や王道の〈チヂミ〉など、何を食べても文句なし。全体を通して、どの皿にも金さんの好きと人柄が詰まっているような、どこか温かさを感じるコースでした。すっかり満腹でオーダーできませんでしたが、〆に最適な〈紀龍の中華そば〉や〈大阪名物かすうどん〉もご用意あり。すべての酒飲みが必ず満足できる充実のラインナップをご賞味ください。

異なるルーツが交わる、ふたりの料理人の関係性

何より人を大切に。居酒屋マスター金さんの仕事観

そんな絶品料理の背景にこの人あり。ここからは『紀龍』を切り盛りする料理長・金さんへのインタビューを通じて、その味の裏側や店づくりへの想いを紐解きます。
「東大阪時代の『輝竜』は、お客さんから“マスター、ただいま”みたいに言ってもらえるようなアットホームな店でしたね。自分としても、そういう空気感を大事にしていました。料理はもちろんだけど、やっぱり人と人との繋がりこそ、こういうお店の1番の魅力だと思うんで。だから本当はここでも、今みたいにお客さんと向かい合って話ができるくらいの距離感でいたいんです。とはいえ現状は厨房が自分ひとりなので、できるだけ早く他のスタッフにも料理を任せられる体制を作っていきたいですね」。
ちなみに『輝竜』という店名は、金さんのお子さんの名前に由来しているそう。人との繋がりを大切にしているというその想いは、お店のネーミングにも現れています。
「色々なところで仕事をしてきましたけど、やっぱり人間関係が良いところって、仕事がしんどくても楽しく働けるんですよ。僕自身もスタッフも、全員が思いやりを持って人に関わる。そうすれば自然とお客さんにも、また来たいと思ってもらえるんじゃないでしょうか」。
「無理するなよ。やるときはやって、休むときは休めよ」。金さんは常々、そんな風にスタッフへ声をかけているそう。料理だけではなく、空間や人づきあいの空気感まで含めて居心地のいい居酒屋を体現するその姿勢が、『紀龍』全体の雰囲気にもやさしく染み出しています。

信頼しているからこそ裏方に徹する。『紀龍』の強力サポーター

ここ新生『紀龍』にはもうひとり、その行く末のカギを握る人物がいます。それが、徒歩5分の場所にある系列ホテル『ザ グラン リゾート プリンセス有馬』の料理長・東方さん。今回の撮影に合わせて駆けつけてくれました。
「色々と手伝わせてもらっていますが、メニューに関してはほぼ口を出していません。ここはあくまで金さんのお店だし、腕は間違いないですからね。もちろんアドバイスを求められれば答えますが、僕の役割はあくまで裏方的なサポート。主にオペレーション面での整備などを見ています」。
互いに料理人として認め合っているからこそ、程よい距離感で『紀龍』に関わっているという東方さん。メニューの印象については、「キムチがちょっと辛かった(笑)」と笑いながらも、「だけど奥深い旨味もあって、これぞ本場の味って感じですね。金さんにしかできないことをしっかり実現していると思います」と感嘆しきり。ジャンルが異なるからこそ、そこに学びや刺激もあると言います。
「自分は和食が専門なので、韓国料理はほとんど触ったことがありません。だけど食べるのは大好き。だから単純に見てて楽しいし、勉強になる部分も多いです。中でも〈チュクミ風鉄板鍋〉は、とても興味があるメニューですね」。
そんな中でも、日によって東方さん発の裏メニュー的な1品が登場することも。
「例えば、『プリンセス有馬』で魚を仕込むときに出る切り端などは、今まではまかないで食べることが多かったんです。でも『紀龍』みたいな居酒屋スタイルなら、そういう素材も活かせるかもしれない。そういった施策として、あるとき限定で〈料理長の気まぐれなめろう〉が登場することもあります」。
こうしたメニューが生まれるのも、『紀龍』ならではの柔軟さと自由さゆえ。噂では〈おかみのポテサラ〉なんてメニューもあるとか!? そんな店だからこそ、周囲の評判もすこぶる良好だそう。
「『プリンセス有馬』のスタッフも、夜仕事が終わってから軽く1杯って感じで飲みに行ったりしてるし、近くにこういうイイお店ができたのは、利用客目線でシンプルに嬉しいですね」。

ここから始まる、また来たくなる店づくり

関西屈指の人気観光地、有馬温泉に生まれた居酒屋『紀龍』。韓国料理をルーツに持つ料理長・金さんと、和食の世界でキャリアを積んできた東方さん。スタイルも立場も異なるふたりの料理人は、それぞれの視点でこの店の未来を描いています。
「まだ始まったばかりですが、とにかく人に恵まれていると感じています。だからいずれは、今のスタッフと一緒にもう1軒、新しい店をやりたい。そうやって縁が広がっていくのが理想ですね。東大阪の店を閉めたときは正直苦しかったけど、いまこうして新しい場所で挑戦させてもらえて、家族の笑顔も変わりました。だからこそ、ここで絶対に結果を出したい。家族のためにも、スタッフのためにも、次に繋がる何かを残したいですね」。そう語る表情はすでに、次を見据える一国一城の主さながら。そしてそんな金さんに寄り添い伴走する東方さんも、最後にこう話してくれました。
「全員が初めての現場なので、最初はやっぱりバタバタしてました。でも確実にみんなスムーズに動けるようになってきてるし、飲食店として、金さん自身が舵を取っているという空気が出てきました。あとはもう広報に頑張ってもらって(笑)、たくさんのお客さんに来てもらえたら。そして、この有馬温泉の丘の上エリアにおける夜の憩いの場第1号として、『紀龍』がモデルケースになっていけると嬉しいです」。

ジャンルを超えて支え合うふたりの料理人が作り出す、居酒屋『紀龍』の世界観。あたたかくて、ユニークで、どこか少し懐かしい。そんな空気が、このお店には流れています。観光で訪れた方も、近くで働く方も、いつかふらりと立ち寄ってみてください。きっとまた「ただいま」と言って帰ってきたくなるような、憩いの夜があなたを待っています。

居酒屋 紀龍
住所:兵庫県神戸市北区有馬町1740-1
ザ グラン リゾート有馬 1階 MAP
Instagram:kiryu_hesta.arimaonsen


Credit
Photo_Ryo Sato
Text & Edit_Satoshi Yamamoto


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