2024.03.11
富士五湖のひとつ河口湖。富士山の絶景や四季折々の自然が楽しめるほか、美術館や博物館、グルメや買い物が堪能できる商業施設なども点在する、人気の観光エリアです。その中からクローズアップしてご紹介するのは、ミシュラン観光ガイドでも3つ星を獲得した、国内外の観光客から注目を集める『久保田一竹美術館』。映像クリエイターとしても活動するモデル/俳優の望月柊成さんと、奇しくも同じ名字の同館副館長・望月さんご案内のもとにその魅力をお届けします。
望月柊成
Cruva management所属。役者やモデルとして様々な媒体、作品で活躍。また、映像クリエイターとしてPVや映画のメイキング、広告などの制作にも携わる。温泉ソムリエ資格あり。
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目次
河口湖駅から周遊レトロバスで約25分の位置にある『久保田一竹美術館』。そのメインゲートは、鉄製のオブジェとインドの古城で使われていた数種類の門を組み合わせて造られています。ここに使われている古城の門は、美術館の創設者であり染色家の久保田一竹氏が自ら買い付けて取り寄せたもの。目を凝らして見ると、門の上部・中央には龍の顔が。
まるで異世界への入口にも思える独創的な門を抜けると右手には大滝があり、入場ゲートでもある新館へと続くアプローチの中で、美しい自然美を体感することができます。
こちらが入場ゲートでもある新館入り口。手積みによる琉球石灰岩(サンゴ等の堆積岩)の8本の円柱に支えられた回廊を持つ革新的な造りが印象的です。
「アントニ・ガウディの建築物を彷彿させる造りですね」という筆者の声に、「はい、そうなんです。染色家・久保田 一竹(2003年4月26日逝去)の連作は未完成となっており、次の代へと受け継がれています。そういった部分から、今もなお建築途中であるサグラダ・ファミリアを手掛けたガウディの建築物にイマジネーションを受けた部分があります」と、話してくれたのは副館長の望月さん。
新館のインテリアには、インド、アフリカ、東南アジアのアンティーク家具が使われており、異国情緒溢れる空間づくりとなっています。
中でも見るべきは、久保田一竹氏が幼い頃に心を奪われ、創作に大きな影響を与えたというとんぼ玉の貴重なコレクションを展示するギャラリー。私たちが知る日本のとんぼ玉はガラス工芸品というイメージが強いですが、ここでは世界各国から集められた様々なとんぼ玉と、その歴史に触れることができます。
仁王像やガルーダなど、オリエンタルな神々の木像も大迫力!
と、ここで改めて『久保田一竹美術館』と、それを作り上げた久保田一竹氏についておさらい。望月さん、ご説明お願いします。
「1994年に開館した『久保田一竹美術館』は、“人と自然と芸術の三位一体”と“新しい文化・芸術の発信地”をテーマにした美術館です。自然をこよなく愛した染色家・久保田一竹(享年・85歳)が、雄大な富士と清澄な水をたたえる河口湖を望むロケーションに建設しました。
染色家である久保田一竹は、室町時代の紋様染め『辻が花染め*』に魅了され、研究をスタートしてから苦節20年、独自の染色技法『一竹辻が花』を発表。1990年には『フランス芸術文化勲章シュヴァリエ』を、1993年には『文化庁長官賞」』を受章するなど、その功績は国内外を問わず高く評価されています」。
―久保田一竹氏が『辻が花染め』に出会ったのはいつですか?
「もとは友禅染めを生業としていた先生が、偶然行った博物館で展示されていた室町時代の『辻が花染め』の小布(こぎれ)に出会ったのが20歳の頃。その小布に大変感銘を受け、本格的に研究を始めたのは40歳になってからです」。
―『一竹辻が花』の魅力について教えてください。
「魅力のひとつは、絞りを何回も重ねて染めていくため、1色では表せない色の深さですね。絞り方が数百種類ありまして、作品を見ていただくと分かるように、場所によって絞り方が異なります。これが、久保田一竹の『一竹辻が花』の特徴といえます」。
―海外からのお客様も多く来館されるそうですが、反応はいかがですか?
「美しい! 素晴らしい! というお声をいただくことが多く、本当にありがたいですね。日本の伝統文化が世界で認められ、感動していただけるのは嬉しい限りです。富士山が描かれていたり、連作で四季を表現していたりするので、実際に着用する着物とは違い、アートとして鑑賞いただけているのかなという印象はあります。半日ゆっくり鑑賞していかれる方もいらっしゃいますし、美大、芸大、ファッションに関わる学生さんも多くいらしてくれています」。
*絞りを基調とした描き絵を施した紋様染めの技法
副館長の望月さんに改めて久保田一竹氏について伺ったところで、いよいよその作品が展示されている本館へ。ちなみに写真2枚目で望月さんが立っている場所は、本館入り口に向かう階段のすこし脇。舞台のような作りになっていて、実際にここで演目が披露されたこともあるそう。
本館の内部は、入り口からは想像ができない広さと高さを誇るピラミッド型の構造に。伝統的な職人の技と現代的なログハウス工法の技を融合した複雑な木組みは、その作品と同じく必見です。
そして館内には、久保田一竹氏のライフワーク『光響』の連作をはじめ、富士をテーマにした作品群、代表作品が展示されています。
取材で訪れた時期は、<富士と夕日>と題し、『富士山』シリーズより5点、代表作であるシベリアの夕日を染め上げた『燦(さん)』を含む計25点が展示されていました。
「2024年3月14日からは、開館30周年を記念した特別展を行います。四季折々の景色、そして宇宙を80連作で表現する事を最終目的としている連作『光響』は、現在までで秋と冬、早春、宇宙を含む46連作が完成しております。今回の特別展では、四季の部分より秋から早春にかけての34点を前期・後期の2回に分けて展示いたします。世界各国への貸し出しや展示を行なっていることもあり、約2年ぶりとなる貴重かつ稀な展示内容となります」と、副館長の望月さん。
※本館内での撮影は禁止です。特別に許可を得て撮影しています。
素晴らしい作品に衝撃を受けたあとは、本館に併設されている茶房『一竹庵』でひと休み。ここでは窓越しに龍門の滝を見ながら抹茶や上生菓子を味わうことができます。
「窓の枠下と水面が同じ位置にあるのは珍しいですね。景色を見ながら点てた抹茶と甘い生菓子をいただきながら、落ち着いてひと息できるのは魅力ですね」と、モデル望月さん。
壁に沖縄漆喰を施した温かみのある空間には、自然を愛し世界を巡っていた一竹氏が集めたインテリアが配置されており、様々な文化が渾然一体となっています。
ミシュラン3つ星の実力を存分に味わい、大満足の望月さん。最後に改めて新館に戻り、ミュージアムショップでお土産品を物色します。
ここには、一竹氏がこよなく愛したとんぼ玉のアクセサリーやオリジナルグッズをはじめ、職人の技術が光る工芸品やちりめんの商品など、他では出会えない品々が多数。またその2階には、絶景の富士山が望める外席も用意されたカフェテラスもあり。
景色を楽しみたい人、旅の思い出にお土産を購入したいという人は、ぜひ立ち寄ってみてください。
建物、庭、調度品すべてが一竹氏のプロデュースである『久保田一竹美術館』。春は桜、夏は青葉や紫陽花、秋は紅葉、冬は雪と、季節によって表情を変える庭も見所のひとつなので、好みの季節に足を向けてみてはいかがでしょう。
久保田一竹美術館
住所:山梨県南都留郡富士河口湖町河口2255 MAP
URL:http://www.itchiku-museum.com
Credit
Photo_Taijun Hiramoto
Text_Sayaka Miyano
Edit_Satoshi Yamamoto
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