2024.08.02
地方で輝くモノ・ヒト・コトにスポットを当てた連載企画『地域創生ローカルヒーローズ』。今回伺ったのは、OMUSUbee storeでも取り扱うオリジナルのフライパン〈フライパンジュウ〉が世界でも話題となっている、大阪・八尾に本社を置く金属製キッチン用品専門メーカー『藤田金属』。ひとつのフライパンから未来を切り開いた4代目社長の藤田 盛一郎さんに、成功までの物語を聞いてみました。
目次
1951年に創業し、主力製品であるフライパンをはじめ、天ぷら鍋や茶筒など金属製家庭用品を製造する『藤田金属』。本社を構える大阪の八尾市は、全国でも有数の「ものづくりのまち」として知られ、約3000社の多様な製造業者が密集しています。
2003年、藤田さんは大学卒業とともに『藤田金属』へ入社。創業者の祖父にはかねてから、「あんたがこの会社の社長になるんやで」と言われていたそうです。ただ当時は、景気低迷や新興国製の廉価品流入などで物価の下落が止まらないデフレ時代。そのため、入社早々に目の当たりにした熾烈な価格競争に苦戦を強いられたとか。
「最初は営業を担当したのですが、なんじゃこの業界って、がく然としました。まずどこに行っても値段を叩かれるんです。しかも売れる商品を作れば、半年後には中国製の安価な類似品が出回り、そしてまた値段を叩かれるという繰り返し。正直しんどかったですね」と、売れてはほしいけれど、売れると真似をされてしまうというジレンマを抱えることに。そうしたデフレからの脱却が、藤田さんの最初の課題となりました。
「品質・性能だけでは通用しない価格至上主義の市場から脱しなければ、会社を存続させることはできないと悟りました」と話し、商品の新しい売り方を模索し始めていきます。
それから展示会への出店、ECサイトの強化など販路を拡充しつつも、価格競争の脱却まではなかなか届かない日々が続いたといいます。そんなとき、藤田さんがふと見たショッピングサイトがヒントになったとか。
「自転車を買おうとたまたま見ていたサイトが、カスタマイズというサービスを行っていたんです。サドルやホイール、タイヤなどを自由に変更できるのが、めっちゃおもろいなと思って」。
業界外の施策に光を見出し、自社でもカスタマイズというサービスを導入したのが、『藤田金属』を一躍有名にした〈フライパン物語〉です。写真はそのサンプル例。素材、サイズ、内面加工、外面の色、持ち手などを自由にカスタマイズでき、そのバリエーションはなんと1040通りもあるそうです。
そうした幾千通りのバリエーションに加えて、OMUSUbee storeでは、ハンドル部分に別注ロゴを用意しました! さまざまなセレクトと併せて、こちらのバージョンもぜひお楽しみください。
カスタマイズオーダーは、なんと1個からでも注文可能。今では個人から企業、カタログのプレゼントなど、さまざまなな方に人気を博しています。そんな生産を可能としているのが、企画開発・材料調達・加工・検品・出荷・販売など、特殊塗装以外を全て自社で行う一貫生産体制。総勢17名という少数気鋭の職人たちの卓越した技術が、商品の品質を支えています。事前に熱処理を施し空焼きを不要にする「ハードテンパー加工」といった独自技術などは、他社にとって模倣困難な同社ならではの強み。独自のサービスと高い技術を併せることで、適正価格を守れるようになったそうです。
〈フライパン物語〉により業績は回復しましたが、「いい時は絶対に続かない」と、売上に甘んずることなく、すぐに次の商品について思案し始めたという藤田さん。目指したのは、キッチン用品でありながら、デザイナーズプロダクトのようなデザイン性を備えたもの。
「カスタマイズは、それまでにあった商品の売り方を変えただけでした。なので、次はデザイナーを入れて新しい商品を開発しようと。コケてもいいぐらいのつもりで、それまで得た利益をすべて突っ込みました。現場は『デザイナー?』って感じでしたけど(笑)」。
そんな時に出会ったのが、プロダクトデザインを得意とするクリエイティブユニット『TENT(テント)』。当時、双方ともに新商品開発パートナーを探しており、運命に導かれるように共同開発がスタートします。
藤田さんが『TENT』にオーダーしたのは、持ち手を着脱できるフライパン。しかしサンプルとして彼らから提出されたのは、1枚のお皿でした。
「最初はビックリしました。そもそもお皿は頼んでないよって。ただそこで彼らから提案されたのは、お皿に着脱式のスライドハンドルをプラスしたフライパンだったんです。調理後のフライパンをお皿として活用し、“つくる”と“たべる”をひとつにしたアイディアに感動し、もう即決でコレを作ろうと決めました。同時にデザインの力というものを強く実感した瞬間でしたね」。
ただその製作は困難を極め、特に持ち手の強度や安定性を確保するのが難しく、その開発だけで1年半の時間を要したという。試作と再考を繰り返し、そして2018年に〈FRYING PAN JIU(フライパンジュウ)〉とネーミングされた、『藤田金属』と『TENT』初の合作が遂に完成。取っ手着脱式の鉄製フライパンという画期的なデザインは、瞬く間にメディアなどから注目を集め、現在は毎月1500個以上も売れるヒット作となり、同社の代名詞アイテムとして人気を博しています。
紆余曲折を経ながらも、アイディアとデザインの力でヒット商品を生み、業績も好調。創業からずっとキッチン用品ひと筋でトップを目指していた『藤田金属』ですが、突如世界を襲ったコロナウィルスのパンデミックによって、藤田さんの思考も変化したとか。
「コロナ禍の巣ごもり需要で、フライパンの売上は伸びました。でも、それが逆に怖くなったんです。例えば、急にガスが使えなくなったとしたら、フライパンの需要って一気に落ちるよなって。何が起こるかわからない時代だからこそ、キッチン用品だけに依存していてはいけないと思い、インテリア雑貨や園芸など、他ジャンルの商品開発にも目を向けるようになりました」。
そうして製作したのが『TENT』との共同開発による鉄製のテーブルランプや、金属製の植木鉢。ライフスタイルを彩りながらも、鉄を扱うプロならではの質実剛健な仕上がりです。
創業70周年という節目に向けて、2021年には工場併設の直営店がオープン。前述のヒット作はもちろん、直営店とオンラインでしか展開していないハンドルのイニシャル入れサービスや、廃材予定だった野球バットを用いたアップサイクルなフライパンなど、全ラインナップが直接手に取れる場所となっています。またガラスの向こうには、工場でのモノ作りが見られるようになっており、現場の空気感を感じ取れる貴重な空間にも。
近年では、ドイツやフランスの国際展示会などの出展や、世界3大デザイン賞の『レッド・ドット・デザイン賞』と『iFデザインアワード』でのダブル受賞も果たすなど、国際的な舞台でも名を広げ、海外からの受注も増えているそう。
「小規模事業者として世界に挑戦する、というのを目標にしてます。直近では『大阪・関西万博』への出展も決まり、7月には初の東京店『FUJITA KINZOKU Tokyo』が、上野の商業施設『2k540』内にオープン。他にも、まだまだやりたいことが沢山です」と、これからも枠にとらわれない意欲的なチャレンジを続けていくという藤田さん。その空気は社内全体にも伝染し、従業員全員のモチベーションも高く、誇りを持って仕事と向き合ってるのが伺えます。スタッフ全員が纏うオリジナルユニフォームも町工場の新しい在り方や気概を示すひとつ。商品開発だけでなく、会社そのものが一層活気づいてる『藤田金属』の挑戦に、またまだ目が離せません。
藤田金属
住所:大阪府八尾市西弓削3-8 MAP
URL:http://www.fujita-kinzoku.jp/
Credit
Photo_Takashi Hakoshima
Edit & Text_Takuya Kurosawa
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