2025.12.23
のどかな田畑と豊かな木々に囲まれながら、日々“あたりまえ”を丁寧に積み重ねる淡路島の養鶏場、『北坂養鶏場』。「いいたまごは、いい親鳥から」を合言葉に、餌と水にこだわりながら、日本古来の鶏をひよこの時から育てあげる。そんなまっすぐな姿勢と創造的なブランディングで、養鶏という仕事に新たな価値を植え付ける話題の養鶏場を、HESTA LIFE女子2名と訪問。代表の北坂さんのインタビューを交えて、その背景を深堀ります。

北坂 勝さん/北坂養鶏場 代表
淡路島生まれ、淡路島育ちの養鶏家。直売所やマーケットの出店、外部デザイナーとの協業による“伝え方”の再設計など。さまざまな試みで養鶏場の新たな在り方を模索し続ける『北坂養鶏場』の2代目代表。
目次

やってきたのは、北淡インターチェンジからほど近い場所にある『北坂養鶏場』の直売所。素朴なコンテナ造りなのに随所に洗練性を感じさせる佇まいは、まさに同養鶏場の在り方を体現しているよう。はたして『北坂養鶏場』とは、どんな環境で鶏を育て、どんな考え方でたまごをつくっているのか、代表の北坂さんの話とともに辿っていきます。
ちなみに今回の取材実現の裏には、HESTA LIFE storeでも取り扱っている『北坂養鶏場』オリジナル商品の存在が。それがこちらの……。

淡路島 北坂たまご たまごまるごとプリン 8個セット ¥3,996
見た目は普通のたまご。でも殻を割ってみると、中身がプリンのような食感に仕上がった、『北坂養鶏場』ならではの不思議なスイーツ。原材料は、たまごのみ。付属のカラメルソースと合わせて、たまごの新境地をお試しあれ。
そんな『北坂養鶏場』の直売所にはもちろん、採れたてのたまごがずらり。品種ごとのサイズ展示もあって、ただたまごを買うだけではなく、選んで楽しい、見て楽しい店内に。
取り扱いは、濃厚な黄身の存在を感じることができる生食推奨銘柄〈もみじ〉と、白身も強いバランス重視の料理推奨銘柄〈さくら〉の2種類。パック売りはもちろん、贈り物にも良さそうなセットも用意されていて、ついあれこれ迷ってしまうこと請け合い。

こちらは生食推奨銘柄〈もみじ〉。その濃厚な黄身のポテンシャルが発揮される食べた方は卵かけごはんでしょうか。ちなみに、たまごの大きさによって黄身の大きさは変わらないけど、白身の量が変わるそうですよ。

店内を物色していると、オーナーの北坂さんが到着。まずは『北坂養鶏場』の特徴を聞いてみました。
「うちはボクで2代目で、日本の鶏にこだわった養鶏場です。っていうと当たり前に聞こえるかもしれませんが、実はいまの日本の養鶏では、国産鶏って4%程度しかいないんですよ。なので、かなり珍しい部類だとは思います。あとは、餌は自分たちでも作っている発酵飼料を、水は淡路島の地下水を使っています」。
日本の鶏を、日本の餌と日本の水で丁寧に育てる。その積み重ねは味の違いとしてだけではなく、「どこで、誰が、どう育てたものなのか」をちゃんと知って選びたい人たちにも刺さっています。島内外から直売所を訪れる人が後を絶たないというのも納得。そんなふうに支持を広げてきた『北坂養鶏場』ですが、その道程は順風満帆だったわけではなかったそう。
2020年11月。『北坂養鶏場』は、鳥インフルエンザに見舞われました。
北坂さんは当時のことをこう振り返ります。
「まさか、と思いました。でも現実だった。陽性が判明したその日の夜には、飼育していた14万5千羽すべての殺処分が開始されたんです。しかも時期はコロナ禍の真っ只中。本気で廃業を覚悟しましたね。
でもありがたいことに、みなさん本当に応援してくれて、従業員も残ってくれた。関わってくれていたクリエイターの方々も、なにか手助けできないかっていろいろ動いてくれて、そこから『キトサカプロジェクト』というアートプロジェクトも始まった。そういったみなさんの支えで、なんとか乗り越えることができました」。
その当時の様子は写真に収められ、敷地内の別棟に展示されています。
その別棟にて、静かな緊張感を秘める写真展示に見入る2人。ちなみに撮影したのは『北坂養鶏場』の従業員であり、アーティストとして『キトサカプロジェクト』にも参加する写真家の横山 佳奈恵さん。
「『キトサカプロジェクト』は、うちの鶏がゼロになったところから復活するまでの未来を創造するためのプロジェクトです。だけど、ボクらこんなに頑張ってますみたいなことを押し付けがましく発信するのも、どうかなーと思って。
それと同じで、実はひよこにも黄色い小さなトサカがあるんですが、あまり知られてないし知らなくてもいいし、わざわざ伝える必要もない。だけど、ひよこに興味がある人にだったら教えてあげたい。このプロジェクトもそんな風に、興味がある人にだけ届けばいいかな、という思いで始めました。だから『キ(黄)トサカ プロジェクト』なんです」。

「『キトサカプロジェクト』もそうだし〈たまごまるごとプリン〉もそうなんですけど、商品開発や見せ方の工夫は、あくまで興味の入口をつくるためのもの。1番は、養鶏場のことを少しでも知ってもらって、すべてのたまごは鶏が産んでいるっていう当たり前を思い出してもらいたいんです。
そんなの当然だと思うかもしれないけど、日常の中ではそこまで意識が向かないことも多いと思うんですよ。だから少しでも養鶏という仕事を知ってもらって、ただ買って終わりじゃなく、その源にも興味を持ってもらえるようになると嬉しいですね」。
そんな話を聞きながら、次に案内してもらったのは直売所のすぐ近くにある平飼いの鶏小屋。前述の北坂さんの想いを体現するための、見学・体験の役割も兼ねた鶏舎です。その思惑どおり、小屋の中で思い思いに動き回る鶏を見ていると、さっきまで商品として見ていたたまごが、確かに特別なものに思えてくる。せっかくなので、産みたてほやほやを採卵させていただくことに。


足元の扉をカパっと開けると、そこは巣箱。敷き詰められたワラの上には、すでにたくさんのたまごが産み落とされています。「いまはアクリルで閉じていますが、ここを開けておくと、自然と入ってきて産卵するんです。暗くて狭い場所を安全だと感じる習性なので」と北坂さん。
手を伸ばして一つずつ手に取ると、さっきまで直売所で見ていたものと同じなのに、急に重みが変わるから不思議。採れたてを手にした女子2人も思わずにっこり。たまごが食材になる前の貴重な時間を、ちゃんと体で覚えた瞬間でした。

直売所から車で5分くらいの場所には、約13万羽を飼育する大型のケージ飼い鶏舎群が。通路を挟んでずらりと並ぶ鶏たち、その足元で流れていく、産まれたばかりのたまごたち。さっきの平飼いが生命活動を感じる鶏小屋ならば、こちらはまさに産業の現場。養鶏業のリアルが詰まっています。
また北坂さんいわく、鶏舎で出る鶏糞は自社堆肥〈島の土〉として再利用・販売しているそう。さらに最近では行政と連携した取り組みで、海の環境改善にも活かされているとか。
「もちろん、むやみに海に流す話じゃなくて、行政主導のテストプロジェクトの中で、海の堆肥として提供しています。特に瀬戸内海は浅いから効果が出やすいと言われていて、実際に海苔の養殖などでは良い結果が出ていると聞いています。因果関係はこれからの部分もあると思うんですが、一次産業に携わるものとして、自然のサイクルの中で役に立てることがあるのは、とてもありがたいですね」。

北坂さんは続けます。「ボクの仕事の軸はあくまで養鶏です。鶏を育てて、たまごを産んでもらって、鶏糞が堆肥になって……そういう循環が、まずある。そのうえでそれを伝える際には、ずっと一緒にやってくれているデザイナーさんが描くブランディングや編集など、さまざまなプロの仕事が関わってくる。一次産業の現場と、そういうクリエイティブな領域が無理なく噛み合っているバランスって、すごくいいですよね。
堆肥に関しても、みなさん必ずしもサスティナブルとかを考えて選んでくれているわけじゃないと思うんですが、軽トラの荷台に〈島の土〉の袋を積んでたり、空袋を野菜入れやゴミ袋に使ってたり、そういう風景が、なんだか素敵だなって思えるんですよね」。

最後に北坂さんはこう話してくれました。「正直、養鶏ってめちゃくちゃしんどいんですよ。父が亡くなって事業を継いだばかりの頃は、自分は日本で一番不幸なんじゃないかって、いつも思っていました。だけどいまは、180度じゃなくて360度、ぐるっと1周して見え方が変わりましたね。さっきも言ったけど、一次産業として自然のサイクルの中にいられるということは、とても幸せなことだと思っています。
だからこそ一般の方にも少しだけ、たまごが鶏から産まれてるってことを思い出してもらいたい。いつでも買える身近な食品ではあるけど、そこにはちゃんと生命活動があるんだってことを思い出しながら、美味しくたまごを食べてもらえたら嬉しいです」。

直売所から鶏舎までひと通り案内してもらい、最後は『キトサカプロジェクト』のロゴ看板前で記念のワンショット。たまごを「いつでも買える食材」として見ていた現代人の感覚を、いま一度改めることができたような、そんな実のある取材になったのでは。もちろん持ち帰らせていただいた採れたてたまごも、感謝を捧げて食べさせていただきました。
北坂さん、鶏さん、ありがとうございました!
そんな北坂さんの思いと『北坂養鶏場』のブランド力が詰まった大ヒット商品、〈たまごまるごとプリン〉。見た目はたまご。でも中身はプリン状。たまご本来の美味しさを丸ごと封じ込めた唯一無二のお味は、たまご好きなら必食。贈り物としても手土産としても喜ばれること請け合いです。

北坂養鶏場 直売所
住所:兵庫県淡路市育波1115-1 MAP
URL:https://kitasaka.net/
Credit
Photo_Ryo Sato
Text & Edit_Satoshi Yamamoto
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