2025.07.22
日本海に面する山間に佇む、工場併設の練り物専門店『二方蒲鉾』。創業から100年以上にわたり、地元の人々と観光客、そして全国各地の小売店や飲食店、公共施設にまでその熟練の味を届け続ける、城崎エリア屈指の大老舗です。そんな歴史と実績あり余る『二方蒲鉾』に革新をもたらす4代目当主・二方さんが生み出す多彩な商品は、伝統の技と遊び心が光る、他では出会えないものばかり。そこに込められた想いと挑戦の裏側を、二方さんご本人の言葉とともにたっぷりとお届けします。
目次
今回の目的地『二方蒲鉾』さんまでは、城崎温泉街から車で約10分。小さな里山をひとつ隔てた先に日本海という自然豊かな立地に居を構える、エリア随一の練り物屋さんです。道沿いに設けられた立派な看板も目印になっていて、ここが地元に根ざした老舗であることを実感。裏手の工場からはモクモクと蒸気が立ちのぼり、活気あふれる雰囲気が一目で伝わってきます。
車を駐め、駐車場の横に並ぶ自販機に何気なく目をやると、そこには〈ちくわパン〉なる商品が。自販機にパンというだけでも印象的なのに、そこで売られているのが〈ちくわパン〉というユニークさに、撮影班も早くもワクワク。さぁどんなお話が聞けるのか。期待に胸を膨らませながら、店内へと足を踏み入れます。
迎えてくれたのは、同社代表の二方道正さん。地域に根ざした親子代々の家業を受け継ぎながら、さらなる発展と改革に挑む4代目の社長さんです。
「初代がこの地域で蒲鉾を始めたのが1921年。元々は漁師をやりたかったそうですが、生まれつきの船酔い体質で断念。それでも魚に関わる仕事をしたいという想いで選んだのが、蒲鉾などの練り物作りだったと聞いています。当初は地元の魚で作っていましたが、先代の時代から大量生産をするようになり、現在では北海道や海外の魚も使うようになりました。
以来、広く各地に商品を納めていますが、中でも特に力を入れているのが学校給食。やっぱり成長期の子どもたちにはタンパク質が欠かせませんし、かつ安全な食品でなければなりません。その点、練り物は非常にタンパク質が豊富なうえ、私たち自身で安全性もコントロールできる。そこで、保存料などを使わない無添加の練り物を開発し、兵庫、大阪、京都、岡山、広島、鳥取、愛知、それと神奈川など、多くの学校に納入させていただいています。最近では少しでも食育の役に立てばと、子どもたちの工場見学なども積極的に受け入れていますよ。
また平成28年には、私の提案で開発した地元産トビウオにブラックペッパーを混ぜた〈濃厚あご短冊〉という商品が、農林水産大臣賞をいただきました。開発当初は社員からも否定的な声が多かったのですが、これをきっかけに、今までの伝統を守りながらも、新しい味やカタチに挑戦することの大切さを実感しました。当社の現在の、そしてこれからの経営方針に通ずる、大きな転機でした」。
練り物界の常識を覆す攻めの新商品で、新たな経営方針を切り開いたという二方さん。その柱となっているのが、機械化による大量生産の真逆の方向。つまり、手作り商品です。
「手作り商品の強化こそ、これからの時代を乗り切るカギだと私は考えています。人口減少や高齢化が進む社会の中で、やはり大切なのは若いお客さまの獲得です。だからこそ、地域の現役世代の方々や観光客の方々に、もっと練り物の美味しさを知ってもらいたい。そういった点で手作り商品は、とても小回りが利くんです。特にうちの場合は、近所の農家さんが定期的に新鮮な野菜を届けてくれるので、日ごとに違う商品作りに取り組むことができる。機械生産だと制約が多いのですが、手作りであれば、ほとんどの食材が加工できますからね。おかげで、『今日は何が並んでるかな?』と、楽しみに通っていただけるお客さまも多いんです」。
店頭には、お土産や通販に適したパッケージ済みの商品に加え、そうした手作りの練り物がずらり。中でも人気は、淡路産玉ねぎの甘みと食感を活かした〈玉ねぎ天〉、ゴロゴロとしたイカが入った〈いか天〉、フワフワ食感が魅力の〈えび饅頭〉など、それぞれが個性的で食べ応えのある逸品ばかり。
加えて、写真(1枚目)の1番手前が、先述の改革のきっかけとなった〈濃厚あご短冊〉。トビウオ(アゴ)の奥深い旨みとペッパーの爽やかな刺激がマッチしたお味は、まさに新感覚のマリアージュ。特にお酒のおつまみに最高だと、多くの酒飲みから支持を得ているそう。他にも、練り物を主役として楽しめるようにと開発された〈練りカツ〉など、ここでしか味わえないラインナップが訪れる人々を待っています。
応接間での二方社長インタビューを終えて店頭に移動すると、なにやら部屋中に香ばしい匂いが。鼻を利かせてその発生源を辿ってみると、なんとそこでは、目の前でちくわを焼いてくれる実演&実食サービスが行われていました。
「普段は食べる機会がないと思いますが、焼き立てのちくわって本当に美味しいんですよ。その味を体験していただきたくて初めてみたんですが、『ちくわの概念が変わった!』と驚かれる方も多くて、やってよかったです」と二方さん。その言葉通り、まだ湯気が立ち上がる熱々のちくわは、外は香ばしくて中はふわっとやわらかく、そしてなにより味が濃い! 噛めば噛むほど魚の旨みが出てくる味わいは、これまでの“おつまみ感覚のちくわ”とは一線を画す存在感。ちくわの概念が変わったという言葉にも納得です。
もちろん、駐車場横の自販機で見つけた〈ちくわパン〉も店頭にて販売中。パンの中にちくわが丸ごと1本入っているという斬新な組み合わせですが、これが驚くほど相性抜群で、毎度必ず買っていくファンも多いそう。
「お店が休みの日に来てくれるお客さまも多いので、申し訳なくて。まぁ遊び半分ではあったんですが、地元の方からも観光の方からも好評ですね」。そう満面の笑みで話す二方さんの表情からは、まるで自分自身もワクワクしながら新しいことに挑戦しているような、そんな前向きな楽しさがにじみ出ていました。
そんな『二方蒲鉾』の商品は、『ザ グランリゾート城崎』の売店内でも取り扱い中。宿泊の際のお土産として、お部屋で1杯やる際の肴として、多くの利用者に購入されているそう。
また城崎温泉街の中心部には、気軽に食べ歩きができるスタンドショップ『城崎てんぷら』も営業中。カリッと揚がった練り物をその場で頬張ることができるとあって、城崎温泉名物の一品として、国内外の観光客から好評を得ています。
その他にも同社商品は、城崎周辺のあちこちで購入可能。観光の途中でふらりと立ち寄っても良し、宿でのんびり過ごしながら味わっても良し。旅のスタイルに合わせて、進化し続けるオンリーワンの練り物を楽しんでみてはいかがでしょう。遠方の方はネットショップでも購入可能なので、こちらも是非。
インタビューの最後に二方さんは、これからの展望についてこう話してくれました。
「私個人としては、大量生産が市場を牛耳る時代はもう、終わりつつあると思っています。もちろんそういった領域も可能な限りキープしつつですが、これからはもっとコンパクトな視点で、眼の前のお客さまにしっかりと向き合わないといけない時代になるはずです。だからこそ、原点回帰が大事になる。地域で採れた新鮮な野菜を使い、職人たちが創意工夫を凝らした手作りによって、その日その場でしか出会えない商品を眼の前のお客さまに提供する。そうした柔軟さと新鮮さ、そして人と人との繋がりを通じて、練り物の新たな可能性を切り拓いていきたいんです。
この地域は、日本の縮図だと私は感じています。四季がはっきりしていて、山や海、川に恵まれていて、本当に食材が豊富。そんな城崎に来て、景色を楽しみながら食の魅力も感じてほしい。そして、ここでしか食べられない練り物を楽しんで、旅の思い出にしてもらえたら嬉しいですね」。
これからも伝統を守りながら、新たな挑戦を重ね、唯一無二の味を未来へと繋いでいく『二方蒲鉾』。地域とともに歩むその姿勢は、これからの城崎の楽しみ方をさらに豊かにしてくれるはず。ここでしか作り得ない、これからの時代の練り物。みなさんも是非一度ご賞味あれ。
二方蒲鉾
住所:兵庫県豊岡市瀬戸757-1 MAP
URL:https://www.futakata.co.jp/
Credit
Photo_Ryo Sato
Text & Edit_Satoshi Yamamoto
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