2025.03.27
その日の朝に函館港で揚がった海の幸を、その日のうちに東京都内のレストランへ。そんな驚きの流通体制を築きあげた、北海道は函館に拠点を構える水産企業、『マルヒラ川村水産』。世界基準のトップシェフたちからも厚い信頼を獲得する、知る人ぞ知る魚のプロフェッショナルです。そうした同社の魅力を探るべく、代表の川村淳也さんのもとを訪問。忙しい朝の函館魚市場の様子もチラ見せさせていただきつつ、その想いと特長を聞いてきました。
目次
まだ薄暗い午前7時前。取材班がやってきたのは、ようやく空も白み始めたばかりの函館魚市場 。多くの漁船が静かに停泊する函館港のその横で、外の静寂とは対象的な威勢の良い声が響き渡る、ピリッとした空気のプロの現場です。「良かったら見においで」と誘ってくれた『マルヒラ川村水産』代表の川村さんも、真剣な表情で目利きの最中。卓越した審美眼で、この日の仕入れを吟味します。
競りが始まると、さらに熱気を帯びる場内。取材班もそんな緊張感あふれる様子を、みなさんのじゃまにならないよう注意を払いながら切り取ります。
函館近海で獲れたばかりの魚介類がずらりと並ぶその光景は、まさに函館の台所といった様子。ここでのやり取りこそが、鮮度と品質の高い海産物を支える最前線となるのです。
競りが終わった川村さん。今度は活魚槽に入れられた魚たちの状態を、1匹ずつ丁寧にチェック。『競り』とは異なり、漁師や卸業者と直接やり取りを交わす『相対取引』の現場は、まさに目利きの技の見せ所。朝に水揚げされた魚介類を同日中に東京都内へ届けるという『マルヒラ川村水産』にとって、仕入れの質は何よりも重要です。
そんな厳しいお眼鏡に叶った魚に出会い、川村さんもこの表情。この日の仕入れも上手くいった模様。
朝の魚市場での撮影を終えて小休止を挟んだ同日昼過ぎ。次に向かったのは、『マルヒラ川村水産』のオフィス兼加工場。到着すると、すでにスタッフさんたちが手際よく魚の処理に取りかかっていました。加工場内は清潔感にあふれ、徹底した衛生管理のもとで作業が行われていることが一目瞭然。
加工前に魚を保管する活魚槽の水温は、魚種や季節に合わせて調整しているそう。これにより魚へのストレスを極力抑えることができ、鮮度と品質を保っているとか。
また「スピードが命」と語る川村さんの言葉どおり、魚市場から加工場、そして出荷までの流れは、とにかくスムーズ。この体制こそが、『マルヒラ川村水産』の大きな強みとなっています。
作業がひと段落したところで、川村さんに改めてお話を伺いました。
「昔はね、ウチも地元の一般家庭向けに魚を売っていたんです。でも今は、料理人、それも一流のプロの方々を主な顧客様として販売しています。これには理由があってね、函館の人たちって、本当に魚にうるさいんですよ。みなさん朝獲れた魚をその日のうちに自分で捌いて刺身にして食べるから、うっかり1日経った魚なんか出しちゃうと、“これ昨日のだろ、味が全然違うぞ”って、すぐにバレちゃうんですよ。それが当たり前の土地で魚商売をやっていたから、自然と“本当にいい魚ってなんだろう”って突き詰めるようになったんです」。
そうした厳しい環境の中で仕入れの目と技を研ぎ澄ませた川村さんはやがて、“ウチの魚の価値を分かってくれる人たちに、もっと広く届けたい”と考えるように。そして目を向けたのが、料理のプロたちでした。
「きっかけは、フランス大使館のイベントに“鮮魚の匠”として呼んでもらったこと。そこで世界三大料理人のひとりであるアラン・デュカスさんと出会い、“この魚は世界に出せる”と言ってもらえたのが転機でした」。
そこから紹介の輪が広がり、都内の有名レストランのシェフたちとも次々にリンク。今の業態へと変化していったそう。
「みなさんに口を揃えて言っていただけるのは、“お宅の魚は、開けた瞬間に全然匂わない!”、ということ。あれが一番嬉しいね。最高の魚は匂いがしない。それがウチの自慢です」。川村さんは続けます。「あのシェフにはこのサイズ、この料理人は神経締めで、って、お客様の好みは全部頭に入ってます。個別対応? そんなの当たり前ですよ(笑)」。多くのトップシェフたちに“鮮魚のプロフェッショナル”と称される理由が、そこにはありました。
「ウチのもうひとつの強みは、輸送の速さ。その日の朝に市場で仕入れたら、午前中に処理して梱包して、昼には新幹線に乗せちゃうんです。すると夕方には東京に着いて、その日の夜にはレストランで提供することができる。もちろんコストは掛かりますが、その分、お客様にはとても喜んでいただいていますよ。ウチのような新幹線輸送を取り入れているところは、他にほとんどないですからね。さらに2023年からは、最新の急速冷凍技術『アートロックフリーザー』も導入しました。これは本当にスグレモノで、特殊な瞬間凍結技術で魚の細胞を殺さずに冷凍してくれるから、全国どこへでも最高の状態で魚を届けることが可能になったんです。数に限りはありますが少しだけ一般販売も行っているので、みなさんも機会があれば一度食べてみてください。ウチの冷凍魚は、他の所とはわけが違うので」。
そして川村さんは、水産業の未来についての想いを語ってくれました。
「最近サスティナブルという言葉が流行っていますが、ウチでも、”サスティナブルシーフード“というテーマを掲げています。これはつまり、魚の価値をきちんと適正価格でお客様に伝えて、その分、漁師さんたちにもしっかり還元するということ。絶対に買い叩かない。それが漁師さんたちの持続性に繋がるし、ひいては、魚食文化の未来にも繋がるはず。水産業の未来のためにオレたち魚屋ができることって、これしかないと思うんですよ。だって続けていかないと、本当に魚食えなくなっちゃうからさ」。
豪快に笑いながらも、日本の水産業に対する想いを語ってくれた川村さん。その目には、”サスティナブル“という耳当たりの良い言葉に乗っかっただけでは決してない、熱意と覚悟が滲んでいました。
魚の品質から流通速度、冷凍技術まで。本当に美味しい魚を届けるため、細部まで徹底的にこだわる川村さん。そんな世界のトップシェフたちも惚れる『マルヒラ川村水産』さんのクオリティを自宅でも気軽に味わえる、「真鱈の昆布〆」、「根ホッケ一夜干し」、「塩たらこ」の〈厳選3点セット〉が、 現在、HESTA LIFE storeにて販売中。「素材の良さを活かすのが一番。手を加えすぎない方が、ウチの魚は旨いんです」と語る川村さんのこだわりを、ぜひご自宅でもお楽しみください。
「函館の魚は、本当に驚くほど美味しいんですよ。だから少しでもその品質を落とさず、全国の方々にきっちり届けたいですね」。取材の最後、川村さんがふと漏らしたそのひと言に、すべてが詰まっている気がしました。
魚の価値を見極め、鮮度を守り抜き、次世代へと海の恵みをつなげていく。その姿は、まさに“魚と生きる”ことを体現するプロフェッショナル。函館の魚を知り尽くした男のまっすぐな想いとこだわりは、今日も最高品質の魚たちとともに、全国へと届けられています。
Credit
Photo_Taijun Hiramoto
Text & Edit_Satoshi Yamamoto
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