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2023.12.13

人にも地球にも優しい素材使いで世界を変える 山形発リネンニットメーカー『ケンランド』潜入記

SNSなどのツールにより、いまや世界中の情報がリアルタイムで手に入るようになった現代。ですがまだまだ日本には、みなさんが知らないスーパーなコンテンツが数多く眠っています。そんなまだ見ぬ地方で輝く人々や企業にスポットを当てた連載企画、『地域創生ローカルヒーローズ』。今回は山形県に拠点を構えるリネンニットメーカー、『ケンランド』にお邪魔してお話を聞いてきました。

実際のところ、リネンってどんな素材?

ケンランド代表取締役社長/大沼秀一さん

シャリッとした手触りと優れた通気性で、アパレル業界では主に春夏シーズンに使用されることが多い天然素材、リネン。そんな一般的には季節感の強い素材に、通年で取り組み続ける『ケンランド』 。OMUSUbee storeでも別注商品を取り扱わせていただいている、山形県山形市のリネンニットメーカーです。だけど一体なぜ、数ある原材料の中からリネンにこだわるのか? その理由と背景を、同社代表の大沼さんに直撃しました。

かつてニットの産地として知られた山形県にて、1948年より続くニットメーカー『ケンランド』。中でも特化するリネンについて、まずはその基礎知識について教えてもらいました。

−大沼さん、そもそもリネンってどんな素材のことですか?

「リネンというとみなさん麻が原料の繊維だと認識されていますが、厳密には、麻は麻でもフラックス(=亜麻)という植物の茎から作られる繊維がリネンです。ほかの麻の種類としては、大麻が原料ならヘンプ、黄麻ならジュート、苧麻ならラミーとなり、それぞれ呼び名も特性も違います。
中でもリネンの原料となるフラックスは、フランス北部のノルマンディー地方を中心に、北ヨーロッパの特定の地域でしか栽培されていなくて、1度収穫したら6年間畑を休ませる必要があり、とても生産条件が厳しい植物なんです。と同時に人類最古の繊維とも言われていて、約3万8千年前から使われていたことが確認されています。エジプトのミイラを包んでいた布もリネンなんですよ」。

この日は、OMUSUbee storeのMDあみちゃんも取材に同行。MD目線でさまざまな質問を投げかけます。

−あみちゃん「具体的にリネンの特徴とはどんなところなんですか?」

「まずは吸水速乾性に優れていること。清涼感があるので、主に春夏シーズンに使われることが多いですね。だけど実は保温性にも優れているから、冬はしっかり温かい。つまり1年中使える素材なんです。
それと麻にはペクチンという成分が含まれています。これが非常に優れもので、汚れが染み込みにくく抗菌消臭作用も備えているので、汗を吸っても部屋干ししても臭くなりにくく、ちょっとの汚れも簡単に落とすことができるんです。さらに手触りも柔らかく、上質なリネンはカシミアに近い風合いですね」。

本場の人々も驚愕! 実は激むずなリネンニット

へー! なるほどー!と、あみちゃん初め一同感心。だけど同時に疑問も湧いてきます。そんなに優れた素材なのに、なぜ日本ではもっと普及しないの? 大沼さんは、おもむろにその原材料を手に取りながら、こう教えてくれました。

「単純に難しいんですよね、手に入れるのも、製品化するのも。ヘンプの原材料となる大麻であればどこでも栽培できますが、先程も言ったように、フラックスはフランスのノルマンディー地方を中心とするヨーロッパ産が基本。しかも日本人は完全に門外漢扱いなので、私自身、何度も現地に出向き、何度も門前払いを食らい続けながら少しずつ信頼関係を築いていき、ようやく卸してもらえるようになったんです。

−苦労して手に入れた後も問題続出

「だけど、そうやってようやく入手できるようになったリネンの糸も、良し悪しのムラが非常に大きいんですよ。栽培の段階で出来が良いのは、4年に1度くらいじゃないでしょうか。しかもうちの場合はニットなので、さらに製品化が難しくなります。ヨーロッパでも、基本は織物ですからね。だからロスが出て当たり前。予定したものを予定した数だけ作ることも難しいので、卸売にも向かず、基本的に自社で販売するしかないんです。そういう意味では、本当に我慢の連続ですね。正直いって相当無謀なことにチャレンジしているし、ヨーロッパの関係者からはクレイジー扱いされていますよ(笑)」。

−技術力とヴィンテージマシンで無謀なチャレンジをクリア!

リネンの本場からもクレイジーだと揶揄されると笑う大沼さん。その無謀なチャレンジを支えるのが、創業75年の歴史で培ってきた技術力と、ヴィンテージのニッティングマシンたちです。

「社員は現在約20名ほど。最盛期は200人近く在籍していたので、当時に比べるとかなり縮小しています。ですがその分、残っている人間はみんな素晴らしい技術者ばかり。それと使用している機械についても、各地から集めたヴィンテージマシンが基本。なぜなら現代の機械は大量生産向けに設計されているモノばかりで、それだとスピードは早いんですが、繊細なリネンの糸を編むには向いていないんですよね。
その点うちで使っている機械は、効率は悪いですがすごく丁寧。ジャケットやセーターを1枚編むのに1日かそれ以上かかりますが、それくらい慎重でないと、リネンニットは編めないんです」。

1冊の本との出会いが今の行動指針に

聞けば聞くほど恐ろしいほどの労力をかけて作られる、『ケンランド』のリネンニット商品たち。そんなリスクを背負ってまで、大沼さんがリネンにこだわるに至った経緯とは?

−自然はお金を出してでも守らなければいけない

「すべては30年ほど前に出会った、『地球を救え』(ジョナサン・ポリット編)という1冊の本からですね。1990年に出版された本なんですが、“サスティナビリティ”という言葉が生まれたのがその3年前の1987年なので、当時としては相当に画期的な内容でした。これをきっかけに、水も空気もただではなかった、自然はお金を出してでも守らなければいけないものだ、ということを知り、本当に衝撃を受けたんです。
それから自分でも色々と調べていくうちに、最も地球に優しい繊維はリネンであるという結論にたどり着き、今もこの本を指針に行動しています」。

色とりどりのリネンニットが並ぶギャラリーショップへGO!

本社工場の向かいには、そんな同社のリネンニットアイテムたちがズラッと並ぶ、ギャラリーショップも併設されています。基本的にはオンラインショップでしか手に入らない品々を、実際に手に取り見れる貴重なスペースだけに、お近くの方は一度訪れる価値あり。

−リネンの概念を覆す色とりどりのラインナップ

リネンニットと聞いて、なんとなくキナリ色などのナチュラルカラーを想像していましたが、実際にギャラリーショップに並ぶアイテムは実にカラフル。ここにも大沼さんのこだわりが。
「色彩学なども学んでいましたので、私自身、基本的に色好きなんです。その時々ですが、多ければ年間で200色以上の新色を作ったこともありますよ。精神安定という意味でも、色は重要なファクターだと考えています。人それぞれに落ち着く色って、必ずありますからね。
ちなみに少し前まではずっと赤系が多かったですね。オレンジも合わせると、赤系だけで10色以上ありました(笑)。最近ではブルー系が多くなってきてます」。

リネンニットを通して伝えたいメッセージ

最後に大沼さんは、今回のインタビューをこうまとめてくれました。

「個人的にはあまりサスティナビリティという言葉を使いたくはないのですが、やはりモノを作る人間としては、地球に最も優しい素材を、地球が本来持っている能力の中だけで運用するべきだと考えています。そのためには、これまで散々地球を傷つけてきた人類に、多少の痛みや我慢がつきまとうのは当然ではないでしょうか。
とか言ってると面倒くさい年寄りだと思われるかもしれませんが(笑)、それでも、うちの商品を通して、そういった考えや姿勢が少しでも伝われば嬉しいです」。

インタビュー終了後、大沼さんの言葉にしっかり感化されたスタッフたちは、ギャラリーショップで各々お買い物。MDあみちゃんも、次回の企画につながるネタはないかと、隅々まで物色していました。最後に、これからきっと長いお付き合いになっていくであろう大沼さんとあみちゃんのツーショット写真をパシャリ。

OMUSUbee storeでは今後も『ケンランド』のアイテム取り扱いを継続・進化させていく予定なので、読者のみなさまも乞うご期待!


COMMENT

私自身、何度か大沼さんにはお会いしているのですが、今回のお話で改めてリネンの素晴らしさについて再認識できました。
大沼さんはその言葉を使うことに抵抗があるとおっしゃっていましたが、OMUSUbeeとしてはサスティナブルという側面にも注力していきたいので、これからもリネンという素材、商材を通して、私たちなりに環境保全に貢献していきたいと思います。


ケンランド
住所:山形県山形市双月町1-3-36 MAP
URL:https://kenland.co.jp/

Credit
Photo_Yozo Yoshino & Yuki Araoka
Edit & Text_Satoshi Yamamoto


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