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2026.03.03

『天王醸造』が守る、100年続く伝統しょうゆの味。

和歌山・田辺で100年以上続く〈天王醸造〉。木桶仕込みの天然醸造を守りながら、今も変わらずしょうゆをつくり続けています。その味は、なぜ選ばれ続けるのか。同社代表・桐本豊さんの造り手の言葉と、『ザ グラン リゾート エレガンテ白浜』料理長・中野立男の視点を重ねながら、〈天王醸造〉のしょうゆの本質を紐解きます。

桐本豊さん/〈天王醸造〉 代表

大正4年から続くしゅうゆ醸家の4代目。受け継がれてきた文化と伝統を頑なに守り、古くから続く木桶を使った製法で、〈天王醸造〉の味わいを実現しています。

料理長・中野 立男

岡山出身の料理人。約30年、日本料理を作り続けてきた和のスペシャリスト。同ホテルで料理長を7年担当しており、地域の味を活かしたい料理を提供している。

木桶が育てる、蔵の味わい

紀伊田辺駅から車で約10分。海と山に囲まれた自然豊かな土地で伝統のしょうゆを守り続ける。

杉の木でつくられた木桶。大人よりも大きいビッグサイズにしょうゆを手作業で仕込む。

蔵ごとに育つ、固有の発酵環境

桐本さん「木桶っていうのは、そこにうちにしかない生態系ができると思うんで」

〈天王醸造〉は、昔ながらの木桶でしょうゆを仕込みます。桶の内側には麹菌や乳酸菌、酵母菌が棲みつき、仕込みを重ねるごとに蔵固有の発酵環境が育っていく。

同じ原料でも、発酵する“場”が違えば味は変わる。木桶は単なる容器ではなく、時間を宿す発酵の器です。

中野料理長「木桶からつくられたしょうゆを使ってみると、味に奥行きがあるんです。強さというより、奥のほうに残る感じがあります」

味本位。手間暇かけて五感で仕込む

現在、国内のしょうゆづくりの多くはステンレスタンク仕込み。温度管理や品質管理がしやすく、主流の製法です。それでも〈天王醸造〉が木桶を使い続けるのは、これが蔵の味そのものだから。

桐本さん「木桶で自ら発酵を育てることが、うちの味というもの。大量には製造できませんが、自分のしょうゆという味本位でつくることを100年守っています」

手や目や五感を使い、天然醸造で発酵を確かめる。効率よりも、深みを選ぶ姿勢。その積み重ねが、蔵の味を形づくっています。

中野料理長「製造過程を見させていただき、奥行きのある味に納得しました。手間暇かけることでの味の確立は、料理も一緒ですから、通じるものを感じました」

味の土台をつくる工程

しょうゆづくりに使う基本の素材。写真は近隣小学校の見学に使っているもの。

同じ素材を使い続けるという選択

しょうゆづくりにおいて、いちばん難しいのは味の安定。そのぶれを少なくするために、桐本さんは同じ素材を使い続けています。

桐本さん「大豆の種類は産地や等級などさまざま。加えて出来も均一ではありません。だからこそまずは素材のぶれを少なくすることが、味の土台につながっています」

中野料理長「料理も同じで、安定していることがいちばん難しい。それができているのは、こうした桐本さんならではの一貫していく工程が大きいと思いました」

熟成した諸味を試食する中野料理長。「塩角はまろやかで強い旨味と芳醇な香りを感じます」

味の骨格を決める、麹づくり

桐本さん「醤油屋さんにどこがポイントですかって聞いたら、ほとんどの人が麹って言うと思います」

まずは蒸した大豆と炒った小麦に種麹をつけて繁殖させます。温度管理した室で適度に手入れをすることで麹菌が繁殖し、酵素を生み出します。

桐本さん「いかにその酵素をたくさんつけるか。そこがまずひとつ目のポイントになります」

麹菌の酵素が、大豆のタンパク質をアミノ酸に、小麦のデンプンを糖に変え、それらが豊かな旨みになっていきます。

麹菌が十分に発育した後、塩水に麹を混ぜて木桶に仕込む。最適なタイミングを狙って櫂入れを行うことで木桶内の諸味に均一に空気を取り入れて醗酵を促します。

派手な工程ではないけれど、味の骨格はここで決まる。素材を揃え、麹で骨格をつくる。その積み重ねが、ぶれない味を支えています。

ブランドを代表する3つのしょうゆの味設計

甘みと塩味の、ちょうど真ん中を探った〈美味しゅうゆ〉

濃口が全国消費の8割以上を占めるなかで、天王醸造のこちらは、その濃口の特性を踏まえた一本です。

桐本さん「甘すぎても、辛すぎてもあかん。その塩梅のよさがこのしょうゆのいいところ」

ほんのり甘みを帯び、最後は塩味で締める。子どもから女性まで受け入れられる味を目指した設計で、今ではいちばん人気の製品。

桐本さん「“このしょうゆやないとあかん”って言ってくれる人もいるんです。冗談で“中毒性があり過ぎる”と言われることもありました(笑)」

中野料理長「ちょっと納得です(笑)。一度使うと他のものでは物足りなくなるんですよね。まずはお刺身などで、しょうゆそのまま味を堪能してみてほしいですね」

再仕込みという、もう一段の深みを持つ〈かけしゅうゆ〉

桐本さん「一旦絞ったしょうゆに、もう一回原料を仕込むものになります。濃厚ながらも、まろやかな味わいが特徴です」

時間も原料も手間も2倍。そのぶん旨みが重なり、かつ塩分は下がり、まろやかな味わいに仕上がります。そんな再仕込みしょうゆは全国消費のなかで約1%という希少なもの。 中野料理長「もちろんこのままでも美味しいですが、こちらは料理の隠し味や調理の仕上げに少量加えると、ぐっと深みが出ます」

より熟成を重ねた〈昔づくり〉

〈かけしょうゆ〉同様に再仕込みしながらも、さらに2年間じっくり熟成した生揚だけを使用した特別なしょうゆです。

桐本さん「時間をかける分、味の層が厚くなる。濃いけど、しつこくないんです」

中野料理長「本来の旨味を贅沢に引き出した力強い風味は、脂がのったお造り、サンマの塩焼きなどにも味が負けず相性抜群です」

料理や用途によってしょうゆを選ぶことができるのも〈天王醸造〉の奥行きです。〈美味しゅうゆ〉と〈昔づくり〉はHESTA LIFE storeでも販売中です。

主役ではなく、欠かせない存在

立ち位置の美学

桐本さん「僕はしょうゆに対して、主役にならなくていいと思ってるんです。でも、しょうゆなかったらあかんやろって(笑)。前に出なくても都度必要な存在になれればいいなと」

料理の味を決定づけながらも、決して主張しすぎない。全体をまとめ、輪郭を整える。その“静かな存在感”こそが、〈天王醸造〉しょうゆの立ち位置です。

中野料理長「“ちょうどよさ”というのは、案外いちばん難しい。しょうゆって主役ではなくても、使えば少なからず塩味や角といった主張は必ず出てくるもの。けれどこのしょうゆは、思い描いた輪郭に収まってくれます。それが私の〈天王醸造〉を選ぶ理由です」

造り手の思想と、料理人の感覚。その交点に、この一本があります。

静かに広がる、しょうゆの奥行き

木桶で育つ菌。五感で確かめる発酵。積み重ねてきた時間。そして、料理という主役を支える設計。派手ではないけれど、味の奥に静かに広がる奥行きは、100年という伝統が可能にしたもの。

一方で、製造は現代的でなく、万人に愛されるとは限らない。それでも〈天王醸造〉が取る立ち位置は変わることはありません。

桐本さん「好みは人それぞれです。ときには“今使ってる醤油の方が好きや”と言われることもあります。でも、それでいいと思っています

私が目指すのは、自分の味を守るということ。そして100人に1人でも、“これがええ”と言ってくれる人がいたとしたら、それに応えるものづくりをこれからもしていくつもりです」

決して自分の味を押しつけない。それでも選ばれ続けるのは、確かな背景と矜持があるから。料理を裏側から支えるしょうゆの奥行きが、日々の食卓に、ささやかな満足を積み重ねていきます。


天王醸造
住所:和歌山県田辺市稲成町2632 MAP
URL:https://www.tenoh-syouyu.co.jp



Credit
Photo_Taijun Hiramoto
Text & Edit_Takuya Kurosawa


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