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2024.03.07

河口湖へ移住した2人のクリエイターが運営するハイブリッドなニンニク農園

日本全国各地に散らばる伝統や銘品、文化などを掘り下げながら、そこでしか出会えないモノ、ヒト、コトをご紹介するOMUSUbee。今回クローズアップするのは、東京から山梨・河口湖へ移住をし、自然栽培の農園『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』を運営する酒井ご夫妻。クリエイターの顔を持つ2人が、なぜニンニク農家になったのか。そのきっかけと、ご夫妻がこだわりの手法で生産するニンニクの魅力を掘り下げます。

農園開業を叶えた2人のクリエイターの顔

世界遺産・富士山の恩恵と豊かな自然が魅力の河口湖町にある『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』。この農園の運営をしているのは、酒井 崇さんとかわじみきさんご夫妻。それぞれクリエイターとしての顔も持つ、いうなればハイブリッドの農家さんです。

「苗字が違うのはなぜですか?」という問いに、「結婚をして苗字が変わりました! と、アナウンスするのもちょっと面倒なところがあって、私が代表を務めるデザインスタジオには旧姓のかわじを使っています」と、話してくれたのは、奥様のみきさん。
農園を手がけるデザイン事務所『ミキッズデザインスタジオ』の代表であり、エコデザイン、サステナブルデザインを専門としたグラフィックデザイナー兼アートディレクターです。
“子供たちに種や自然を繋ぐ、自然栽培農家が食べていけるモデル作り”を目的とした農園の運営を旦那様の崇さんとともに行い、商品開発やイベントのプロデュースなどを担っています。
現在は、農園の運営や生産に重点を置いているためデザイン業をセーブしているそうですが、「以前から携わってきたエコデザインや木の恵みにあふれる間伐材を使った空間づくりなどは、いつも頭の中にあります」とも、話してくれました。

そして『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』の代表であり生産管理者でもある崇さんは、10代半ばからドラムを叩き始め、パーカッションなどの打楽器演奏やパフォーマンス、グルーヴ系音楽の制作にも携わってきた音楽クリエイター。過去には、ご自身のアレンジ担当曲がUKクラブミュージックのチャート1位を獲得したことも。
30代のときに参加したイベント、<大豆レボリューション>をきっかけに、有機農業に関心と興味を持ったことが、農園の開業に繋がったという。

東京から山梨へ。移住を決めたきっかけとは?

東京都・世田谷区で生活をしていた、音楽畑とデザイン畑出身の2人。環境を変えて、新しい畑づくりに挑戦した理由が気になるところ。また、移住生活をしてみて感じたことを聞いてみました。

―河口湖へ移住したのはいつですか? また、きっかけを教えてください。
崇さん「移住したのは、2016年です。その年の11月に30cmの積雪を体験し、驚きとショックを受けたことを思い出します(苦笑) 。子供たちは喜んでいましたけど」。
みきさん「移住のきっかけは、息子が産まれたことと住んでいた団地の立て壊しです。最初は、『赤目自然農塾』がある関西を希望していて、農地の打診は、長野や栃木・那須の方からもありましたが、私のデザインのクライアントが東京ということもあり、日帰りできる場所で、息子の教育環境が良いところで河口湖にしました」。

―移住して感じたことを教えてください。
みきさん「冬のシーズンは、とにかく寒い! 暖房などの光熱費がとってもかかるのが難点です。その反面、夏は涼しくクーラーが必要ないのは良いところですね」。
崇さん「河口湖町は、プロパンガスを使っている家が多く、冬場は、どうしてもガス代が高くなってしまう。生活をする中での困りごとは多少ありますが、富士山を間近に見ることできて、空気もきれいな環境は東京にはない魅力だと思います」。

十数年前から、有機農業に興味を持っていた崇さんは、農薬と化学肥料を一切使わない野菜づくりを行う有機農法のパイオニアともいえる『大平農園』(東京都・世田谷区)と、“耕さず、肥料・農薬を用いず、草々・虫たちを敵にしない”  自然の営みに添った自然農を学ぶ『赤目自然農塾』(奈良県宇陀市)にて、自然に寄り添う栽培方法を学んだそう。

移住してから畑探しに2年を費やし、そこから、多品目栽培テスト、ニンニクテスト、違う場所でのテスト、種を増やすテストなどを重ねたと言います。販売許可を出してくれる畑の地主さんに出会い、2023年から本格販売をスタートしました。

崇さん「自然栽培は、無農薬、無肥料。過酷な栽培です。ほとんど育ちません。ですが、その土地の土壌、気候にあった品種であれば可能です。それを探すのに数年かかりました」。
みきさん「最初は、多品目野菜で離乳食用の野菜を育てたかったし、個配もしたかったんです。でも、寒すぎて自然栽培で育つものがなかった。1年目はラッキー収穫というものがあって、2〜3年育てて安定した品質でないと以降の計画ができません。自然栽培ができる野菜のテストを何品目も試みて、その 中で2種のニンニクが残りました。北海道のものです。それを別の場所の富士宮や道志村でも試してみましたが、河口湖が一番安定して美味しく作れました」。

河口湖の環境が育む自然栽培の紫ニンニク

『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』では、およそ一反の耕作面積の中で薄皮が紫のニンニクを育てています。が、取材で訪れた時期は、ニンニクが栄養を蓄えながら土の中で生育している真っ最中。
「よく鹿がやって来て、畑を荒らして困ります。食べることはせず、掘ったり踏みつけたりしてね。昨日もやられちゃいました(笑)」と、話してくれたのは、畑を案内してくれたみきさん。暖冬の影響もあってか、山から鹿が降りてくる回数や、気が早く芽を出すニンニクも多いそう。

―こちらで作られるニンニクの特徴を教えてください。
みきさん「私たちが生産しているのは、希少な在来種の薄皮が紫のニンニクです。ニンニク特有の匂いや辛みが控えめで、雑味がないのが特徴です。また熱を加えると味が濃くなり、ホクホクとした食感が味わえます。農園にいらした一流ホテルのシェフからは、他のニンニクと違って生でも甘みがあるので馬刺しにピッタリだ! という感想をいただき、自然栽培の食材を使う老舗レストランのシェフは、うちのニンニクをメインにしたコースを旬の時期に出してくれています」。

崇さん「河口湖は、冬に氷点下を越えることも多いので、実が引き締まり、生でも甘みを感じるニンニクが育ちます。土壌や環境によって作れるものは違いますし、適所野菜のひとつだと思います。ここは1日の寒暖差があるので、作物を鍛えると言いますか、良い作用があると感じています」。

ニンニク農家が提案する美味しい料理

一流シェフも自ら収穫に来て料理に使うという『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』の紫ニンニク。その味を確かめるため、おすすめメニューや商品を試食させていただきました! 今回は、その中から3つをピックアップしてご紹介します。

●ニンニクのアヒージョ
河口湖の職人さんが手作りする<朝霧高原放牧豚とニンニクの無添加ソーセージ>を使ったアヒージョ。具材を食べた後は、ニンニクの香りと旨味が堪能できるオイルにバケットを浸して2度美味しい!

●ニンニクの芽のスープ
八丈島にある特殊な機械を使って丁寧に処理された、香ばしい風味の<乾燥ニンニクの芽>を使ったスープ。少量でもコクが出るので、出汁やお茶としていただくのも◎です。

●黒ニンニク
保温器で71度をキープし、10日間かけて作られる<黒ニンニク>。薄皮を剥いてパクっと一口でいただける手軽さが嬉しい。甘みのあるねっとりとした食感が特徴。

道の駅やオンラインショップで買える商品もあり

上段で紹介したニンニク料理の中でも、<黒ニンニク>は白のニンニクと比べて栄養価が高く、抗酸化作用・免疫力アップに期待できるとあって、健康や美容に関心の高い人からも注目されています。
こちらで紹介した食材や商品は、『河口湖ショッピングセンターベル』、定期的に行われる東京のマルシェで販売しているほか、河口湖ふるさと納税やオンラインでも購入可能なので、ご自宅で味わいたい方はサイトをチェックしてみてください。また、ファーマーズキッチンの開催や種まき・収穫の農業体験の問い合わせについてもサイトからのアクセスがおすすめです。

最後に『MT. FUJI GREEN KIDS FARM 』を運営する2人からのメッセージ。
「農園の運営は夫婦二人三脚なので、生産する数にも限りがあり、時間も多く要してしまいます。今後は、自然栽培の農業や援農に興味のある方により多く参加していただける機会を作り、たくさんの人にニンニクとその美味しさをお届けしたいと思います」。


MT. FUJI GREEN KIDS FARM
URL:https://greenkidsfarm.square.site


Credit
Photo_Yuki Araoka
Text_Sayaka Miyano
Edit_Satoshi Yamamoto


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