2023.09.27
滋賀県生まれの伝統工芸品、信楽焼。そんな日本屈指の焼き物を80年以上にも渡り作り続ける窯元『丸十製陶』に、我らOMUSUbeeで信楽焼きの商品を作りたいと、編集部撮影チームとオンラインストアのMDあみちゃんが現地を訪問。
本メディアのオンラインストアでも取り扱うTHE HARVESTさんが数ある信楽の窯元からOMUSUbeeの想いを形にしてくれそうな窯元『丸十製陶』さんを紹介いただきました。
信楽焼に関するアレコレをもっと知るため、打ち合わせとお勉強を兼ねたインタビュー取材を実施してきました。
教えてくれた人
丸十製陶 商品企画本部長 山野耕司さん
大阪府出身、大阪芸術大学卒。1937年創業の窯元『丸十製陶』にて、そのオリジナルブランド『CONTENTS』の商品企画を束ねる。プライベートでは、ハーレーを始め複数台のバイクを所有するモーターサイクリスト。
教えてもらった人
OMUSUbee store マーチャンダイザー あみちゃん
本メディアとニコイチで展開するオンラインショッピングサイト、OMUSUbee storeのMD。今回は同ショップで次に扱う『信楽焼』製品の企画打ち合わせと、その背景のお勉強のために同行。どんな製品が発売されるか乞うご期待。
目次
地域の動脈として愛される国道422号線から脇に入り、のどかな大戸川をわたった住宅街。向かったのは、観光客と陶器のタヌキで賑わう信楽町のメインエリアからは少し離れたこの場所に居を構える窯元、『丸十製陶』さん。敷地の入り口ではオリジナルブランド『CONTENTS』のショールーム兼ショップで一般客を迎えつつ、さらにその奥の工房にて、80年以上に渡り信楽焼を作り続ける製陶所です。
そんな地元でも名の通った窯元さんに、信楽焼の何たるかを教わるために訪れた『OMUSUbee store』MDあみちゃんと撮影チーム。Tシャツの襟を正す気持ちで、その敷居をまたぎます。
この日わたしたちを案内してくれたのは、『丸十製陶』オリジナル製品の企画デザインを手掛ける山野さん。職人気質の気難しそうな方が来るかも……なんてこちらの緊張が拍子抜けするほど物腰柔らかく、金髪+バイカーズTシャツ+VANSのスニーカーというLAバイカーさながらの出で立ちで歓迎してくれました。
聞けばかつては現代美術作家として活動していたそうで、今から約30年ほど前、『滋賀県立 陶芸の森』主催の作陶研修に参加した際に当時の代表と知り合い入社したとか。そんなトガった感性を持ちつつ信楽焼の伝統性も継承する山野さんから、まずは信楽焼の基本の「き」を学びます。
「そもそも信楽焼は鎌倉時代に生まれた焼き物で、『日本六古窯』とも言われている歴史のある焼き物です。当時は主に、水瓶とか壺とか、いわゆる大物を多く作っていたみたいですね。それが江戸時代になって徳利なども作られるようになっていくわけですが、その『大物』っていうのが、信楽焼のひとつの特徴でもあります。それは何故かというと、信楽焼で使う信楽の陶土って、ものすごいコシがあるんですよ。だから大きな物でも成形しやすい。今でも旅館などでたまに見かける陶器のお風呂とか、昔の公園によくあった陶器のテーブルセットとかも、実は大体が信楽焼なんですよ。一般家庭で使うものでいうと、傘立てとかが代表的ですかね」。
ふむふむ、とメモを取りながらお話を聞く真面目なあみちゃん。とはいえ、今この工房にあるのは、生活に宿した実用的な器ばかり。それに実際に『OMUSUbee』で取り扱うことになるのも、きっとそういった小物類が中心のはず。
ー 山野さん、その辺りの理由や背景も教えてもらえませんか?
「ボクがまだここに入ったばかりの頃は、傘立てとか大型の花瓶とか、大物もたくさん作ってたんですよ。だけど、古い大きな日本家屋が複数棟の建て売り住宅や集合住宅に建て替えられたり、日本の住宅環境自体が変化していくに伴って大物のニーズが減少していき、今ではほとんどが生活に寄り添った器などの小物陶器ばかりですね」。
なるほど納得。かつての様式美が失わていくことは少し寂しいけれど、でもやっぱり生活の中で使いやすい方が、わたしたち一般ユーザーにとってはありがたい。
ー では山野さんが考える、守るべき伝統とは?
「真の伝統は、『緋色』ですね。信楽の陶土に含まれる鉄分が、薪窯で焼かれた際に酸化して発生するオレンジっぽい色のことなんですが、これこそ、信楽焼の唯一の本流です。だけど現代の信楽焼って、それ以外にもたくさんあるじゃないですか。実はそういった『緋色』以外の信楽焼は、ほぼフリースタイルなんですよ。
一般的に陶芸品っていうと、手びねりやロクロでの成形を思い浮かべるかも知れませんが、うちの場合は大量生産に対応するため石膏型と水コテで均一に成形しているし、焼き窯だって、ガスでも電気でもいい。釉薬を使うのも顔料で色付けするのも自由。極端な話、信楽の陶土を使ってなくても、誰に咎められるわけでもないんですよ。まぁ個人的には土の風合いは大切だと思いますけどね。
だけどそういった他にはない圧倒的な自由度こそ、信楽焼の伝統というか、大きな特徴と言えるんじゃないでしょうか。だからこそバリエーションも豊富だし、お客様としても選択肢が多いから、陶器見本市なんかでも信楽焼は圧倒的に人気があるんですよ」。
ここで少し場所を変えて、工房に隣接して建てられた自社ブランド『CONTENTS』のショールーム兼ショップに移動。山野さん自身が企画デザインを手掛けたオリジナル陶器の数々を実際に見ながら、その背景について教えてもらいました。
ー オリジナルブランド『CONTENTS』の立ち上げについて教えてください。
「オリジナルブランドを立ち上げたのは、今から17〜18年前くらい。それまでずっと信楽焼の商社さんにお世話になっていたんですが、バブルがはじけて、モロに影響を受けたんです。こういう付加価値の商品って、正直なくても生活に困らないし、いわば贅沢品ですからね。やっと注文が入ったと思っても、小皿10枚、カップ3つ、お茶碗5つ、みたいな感じで、もう本当にどん底みたいな状況でした。そんなジリ貧の中で、もう自分たちでやっていこうと、先代の社長が決断したんです。当時ちょうど、外の商社さんや小売店さんが直接、信楽焼の窯元を訪ねてき始めていた時代。わたしたちはそういった外の方々と手を結び、自社ブランドを立ち上げ、自分たちの商品開発に賭けることにしました。まぁ最初の頃はひどかったですけどね、バッシングとか。完全に裏切り者のヒール扱い(笑)」。
今でこそ笑って話す山野さんですが、まだ様々なことがクローズドだった当時の時代性を考えると、その逆風は相当のものだったはず。とはいえ独立して飛び出した外の世界でも、そう易々とは受け入れられなかったそうです。
ー 当時のお客様たちの反応は?
「あの頃は熱意ばっかり先走っていて、完全に売り方を間違えてましたね。例えば展示会などに出ても、作り方の説明ばっかりしちゃうんですよ。土がどうだとか、焼きの技術がどうだとか、色の出方がどうだとか。だけどそうやってボクらが熱く説明すればするほど、お客様は引いちゃうんですよね。だって大多数のお客様は、ボクらの技術やこだわりが欲しいのではなくて、『なんかちょっとステキな焼き物でコーヒー飲みたいな』みたいな、生活の彩りが欲しいわけですから。
それに気づいてから、デイリーユースとして様々なシーンで邪魔にならない普遍的な陶器を作ろうと意識するようになり、少しずつ今の基盤ができていった感じですね」。
とはいえもちろん、こだわりがないわけではありません。むしろめちゃくちゃこだわっているけど、そのこだわりを見せないように隠すところまでが、『CONTENTS』のこだわり。実際、土だけでも10種類以上のバリエーションを持っているし、さらに釉薬に関しては数え切れないほど、それこそ何百種類ものストックがあるそう。それらを製品ごとに最適なレシピでかけ合わせているというのだから、気の遠くなるような作業です。
そうして生み出された、一見すると普通だけど、実はとっても普通じゃない『CONTENTS』の製品の数々。その種類も実に豊富で、山野さん自身、トータルの型数は把握していないとか。そんな無数の陶器の器を実際に目で見ながら、話はいよいよ核心へ……。
「あくまで普遍的なデザインを作るように心がけてはいますが、やっぱりそういった中にもトレンドってあるんですよ。例えば少し前までは、釉調が少ないのっぺりとした表情のものがよく動いていましたが、今はその逆。粗い土の素材感だったり、複雑な釉調だったり、テクスチャー感のあるものが人気です。そういう時代のエッセンスを敏感に取り入れていくところもコンセプトのひとつ。だから自然と型数も増えていってしまうんですよ。
だけどそんなトレンドにも柔軟にフィットさせていけるのが、フリースタイルな信楽焼のいいところだし、商社に頼らず自社ブランドを展開している『丸十製陶』のストロングポイントだと思っています。多分、日本全国でもうちくらいなんじゃないですかね、こうやってお客様と直接お話をして商品企画していける窯元って。
ボク個人としても常に挑戦してみたいアイディアがあるので、今回の『OMUSUbee』さんの商品企画も、互いの想いや創造性を混ぜ合わせながら、純粋にカッコいいと思える製品を作りたいですね」。
ここから話は、より具体的な商品企画の内容へと移行していきましたが、ネタバレになるので今回はここまで。この後はTHE HARVESTさんも商品企画に参加か!?
次回はTHE HARVESTをご紹介しますのでお楽しみに。
COMMENT
「OMUSUbee storeのラインナップの中でも、日本の伝統工芸品である信楽焼の器は、とてもアイコニックな商品のひとつ。その製作現場を実際にこの目で見れたのはとても貴重な体験でしたし、実際に企画デザインを手掛ける山野さんのお話は、めちゃくちゃ勉強になりました。おかげで、商品企画の方向性もなんとなく見えてきました。山野さん、丸十製陶のみなさん、本当にありがとうございました。絶対にステキなものができるはずなので、これを読んでるみなさんも、是非ご期待ください」。
Credit
Photo_Shuhei Nomachi
Edit & Text_Satoshi Yamamoto
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