2026.03.11
和歌山県有田川町、山あいに湧き出る清水「空海水」を仕込み水に、天保11年(1840年)から続く『髙垣酒造』。ヘスタライフ広報のイワイダと旅するクリエイター・望月 柊成さんとともに、9代目杜氏・髙垣 任世さんが語る、手造りの酒と山里の哲学に迫ります。

髙垣 任世さん/髙垣酒造 代表・9代目杜氏
8代目杜氏である夫・淳一さんの急逝を受け、2010年に後を継ぐ。未経験から酒造りを習得し、現在も少量・手作業の醸造スタイルを貫きながら、蔵の味を守り続けている。
目次



有田川上流、早月渓谷の岩清水は、弘法大師空海が発見したとされ、いつしか人々の間で不老長寿の「空海水」と呼ばれるようになりました。この清水に魅せられた初代・髙垣又右衛門が酒蔵を開いたのが、1840年のことです。
生石高原から吹き下ろす冷気が里に降り、冬の蔵をひときわ冷え込ませます。水はやや硬質ながら、できあがる酒は柔らかく仕上がる。この土地の水と寒さが、『髙垣酒造』の酒の土台をつくっています。
イワイダ「蔵に入った瞬間から空気が違うというか。山の冷たさと発酵の香りが混ざって、ここでしか醸せないんだなとすぐ感じました」。
大正15年に建てられた主屋は、有田川町で初めて登録有形文化財に登録された建物です。全銘柄に対して小仕込みと路地放冷を徹底し、蒸し上がった米を手で少量ずつ広げ、一粒一粒の内部まで均等に冷ましていきます。「この子たちが気づかないようにゆっくりと上げて下げるんです」と、米を我が子のように扱う任世さん。酵母を生き物として向き合う視点が、この蔵の手仕事の根底に流れています。


洗米にかける時間は秒単位で見極めます。温度の確認も手で行います。
「手温度計って言うんですけど、蒸米を40枚ぐらい広げて手で触って平均を取る。これは機械ではできない」。
蒸し上がった米は麹室へ移り、種麹を振りかけて菌を育てていきます。1〜2時間おきに温度と湿度を確認する24時間体制で、この作業を冬の間ほぼ2日に1度繰り返します。
麹ができたら、酒母(しゅぼ)づくりへ。電熱で温度を1日3度上げ、翌朝までに2度下げる。この「熱い地獄と冷たい地獄」を繰り返してストレスをかけ、弱い酵母を落としてエリートだけを残す。「元作りの基礎がきっちりしてれば、タンクに入っても強い」と任世さんは話します。
仕込みが進むと、今度は醪(もろみ)の管理が始まります。長い棒状の櫂(かい)を使い、タンクの中を丁寧にかき混ぜる「櫂入れ」も手作業で行われます。発酵の状態を確かめながら、全身で醪と向き合う。手と目と感覚を総動員した積み重ねが、蔵の酒の骨格をつくっています。
ちなみに蔵の上階には、代々受け継がれてきた酒造りの道具が保管されており、地元の小学高の見学受け入れも行っています。山里の酒蔵が地域の記憶を静かに守り続けている場所でもあります。
イワイダ「古い道具が現役の蔵と同じ空間にあって、歴史がそのまま続いているんだなと感じました」。


髙垣酒造の屋号でもある代表銘柄〈紀勢鶴〉。癖がなく食中酒として幅広い料理に寄り添い、燗にするとさらに旨みが開きます。「ガンガン熱燗で、おでんと家で晩酌する酒」と任世さんは笑います。
望月「主張しすぎないのに、ちゃんと料理を盛り立ててくれる感じで。日常使いの酒ってこういうことか、と思いました」。
山田錦を40%まで磨き上げた原酒。搾りの中心から取れる少量のみを、ろ過せずフレッシュな状態で瓶詰めしています。白身魚のカルパッチョやマグロなど、素材を活かした料理との相性が際立ちます。
イワイダ「大吟醸って派手な印象があったのですが、これは品があって。食事しながら飲むと、よりよさがわかる気がします」。
近畿大学湯浅農場の農学部生が栽培した山田錦を「空海水」で醸した〈近大酒〉シリーズ。ラベルは同大学芸術学科の学生がデザインし、全学部のカラーを虹色の波文様で表現しています。
純米吟醸は端麗でおすましな感じで、芳醇な香りとすっきりした飲み口の食中酒。純米酒は「わいわい楽しく飲んでもらいたい酒」と任世さんは語り、味の強い料理にも負けない骨格を持ちながら後口はキレよく整います。
望月「同じ米でこんなにキャラクターが違うものができるんだと驚きました」。

「お客様からは〈喜楽里〉の純米をオレンジジュースで割ると美味しいと言われました」と任世さんは話します。また、お神酒をお風呂で楽しんでいるという声もあったそうで、笑いながらも「それでいいんです。固定概念を取っ払って、自由に楽しんでほしい」と続けます。
その根底にあるのは、日本酒をもっとたくさんの人に楽しんでほしいという願い。というのも、日本酒は敷居が高いと思われがちで、知識のなさを感じて遠のいてしまう若い世代も少なくないと話します。「とにかく美味しいと思う日本酒に出会ってもらいたい。ご自分の美味しいと思うものを飲んでほしい」。
どんな入り口であっても、その先に『髙垣酒造』の酒との縁がつながっていけばいい。そうした思いを内に秘めながら、有田川町の山里で、今日も小さな蔵が静かに酒を醸しています。
イワイダ「日本酒って難しいものだと思っていたのですが、任世さんと話していたら、そんなの関係ないんだなって。美味しいと思ったものを飲めばいい、それだけなんだと気づかされました」。
現在、『ザ グラン リゾート エレガンテ白浜』では、『髙垣酒造』をはじめとしたペアリング企画を実施中です。料理と組んでこそ面白いお酒を味わいながら、日本酒を気軽に楽しんでみてください。
〈構成〉
料理:コース + 日本酒3種ペアリング
〈酒選定〉
【日本酒×前菜】高垣酒造 喜楽里 大吟醸(720ml)
【日本酒×魚】高垣酒造 紀勢鶴 純米酒(720ml)
【梅酒×肉】紀州熊野蒸留所 ウイスキー仕込み梅酒(ロックorソーダ)
〈お猪口・グラス選定〉
【ヴィラ・コンコルディアセレクト】津軽びいどろ 盃(4色)
【ヴィラ・コンコルディアセレクト】津軽びいどろ タンブラー(7色)

髙垣酒造
住所:和歌山県有田郡有田川町小川1465 MAP
URL:https://takagakishuzo.com
Credit
Photo_Taijun Hiramoto
Text & Edit_Takuya Kurosawa
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