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2024.06.26

たくさん笑って、たくさん泣いて。映画『ただいま、つなかん』が描く、気仙沼のとある民宿の物語。

日本全国に散らばる伝統、文化、工芸などをメインテーマに、さまざまなモノ・コト・トキをお届けしてきたOMUSUbeeも、気づけば開設1周年。そんな節目を記念して、復興に沸く漁師の町、気仙沼を特集。震災直後には多くの学生ボランティアたちに愛されながら、心と心の交流を生み、昨今では超良質なサウナの導入で話題になった民宿『唐桑御殿つなかん』に、プロサウナー水風呂ちゃん行ってまいりました
と、その前に、先の『唐桑御殿つなかん』を描いた映画『ただいま、つなかん』を観てきましたので、ザザッとその概要と魅力をお伝えします。

約10年の時間を詰め込んだドキュメンタリー

映画『ただいま、つなかん』は、気仙沼市唐桑町鮪立(しびたち)にある民宿『唐桑御殿つなかん』を、約10年間に渡り追い続けたドキュメンタリームービーです。
舞台となる『唐桑御殿つなかん』は、3.11の震災時、3階まで達する津波の被害を受けたものの奇跡的に流失を免れた、当時牡蠣養殖業を営んでいた菅野さんご夫婦の元自宅。そこを学生ボランティア(=Gakuvo)たちの寝泊まり場所として提供し始めたことから、物語は動き出します。

Gakuvoの寝泊まり所として開放したその元自宅は、「鮪立(鮪→ツナ)の菅野さん(=カン)の家」という言葉遊びから『つなかん』の愛称で親しまれ、学生たちと菅野さん夫婦の間にはいつしか、家族のような絆が育まれていきます。そして2013年には奥様の一代さんが、Gakuvoの活動が終了した後も学生たちが帰ってこれる場所にしたいとの想いで、民宿として改修し『唐桑御殿つなかん』の運営を開始。以来、紆余曲折を経ながらも、現在に至るまで多くの人々に愛され続けています。
作中ではそんな女将の一代さんを中心に、人と人との交流や、学生たちの決断、日々の暮らし、そして耐え難い別れなど、ここでしか生まれない濃密なドラマが、淡々と、かつきめ細やかに切り取られています。

監督自身が語る、作品の成り立ち、現在、展望

そんな映画『ただいま、つなかん』を手掛けたのは、本作が映画初監督という風間研一さん。なんと我々スタッフが作品を観に行った際、その日たまたま登壇予定で来場していたご本人から貴重なお話を伺えたので、こちらで少しご紹介します。
「私は元々テレビディレクターをやっていて、初めて『つなかん』におじゃましたのも、某番組内の取材でした。2012年のことですね。それからも番組制作で何度か伺ううちに、もっとこの現場を記録しておきたいという想いでプライベートでも通うようになり、2019年に映画化することが決定しました。だから実は、この記録映像が映画になるとも、ましてや自分が映画監督になるとも、まったく思っていませんでした」。

謙遜したようにそう語る風間さんですが、先ごろ本作は、『第48回 日本カトリック映画賞』を受賞。監督自身の当初の予想とは別に、この作品は評価を高め、ひとり歩きを始めています。
「本当に嬉しい限りです。これをきっかけに知ってくださる方も多いだろうし、日本全国の方々に観ていただきたいですね。私も上映の際はなるべく参加して、今日のように登壇する機会があれば、できるだけお話をさせていただきたく思っています。映画のいいところは、そんな風にお客さんの反応が直に感じられるところ。映画監督になるつもりはなかったけど、映画監督の喜びは知ってしまいました(笑)」。
そして風間さんは、本作品の現在地、今後について、こう語ってくれました。
「個人的には、近ごろ(2024年6月現在)、この映画の存在感が少し変わってきているように感じています。というのも、1月に能登半島地震があったじゃないですか。それがきっかけで、というと語弊があるかもしれませんが、明らかにそれ以降で、上映に関する問い合わせの件数が増えたんです。やはり被災地の10年間のリアルを描いたという点では、意味が大きかったんだと思います。
だからいつか、1年後なのか3年後なのかわかりませんが、復興がもう少し進んだ段階で、能登でも上映会を行いたいと考えています。現地の方々にこの映画を観ていただき、少しでも勇気や希望を抱いていただけると嬉しいですね」。

映画の主軸で『つなかん』の太陽、一代さん

映画を観た数日後、実際に『唐桑御殿つなかん』に撮影でおじゃましたスタッフ一同。水風呂ちゃんにもご同行いただいたそちらの企画はまた別途お届けするとして、ここではその際に一代さんから伺ったお話も少しだけ。
「震災があって、Gakuvoの子たちと出会い、民宿を始めて10年経ったけど、やっぱりその間も色々あって、一時期は鮪立から出れなくなってしまったこともありました。だけど本当にみなさんのご協力もあって、いまはしっかり前を向けてるかな。この映画の上映会でも、観に来てくれた人たちに直接お礼が言いたくて、愛媛にも行ったし、奈良にも行ったし。だから私にとっては、すごくいいきっかけになりました。おかげでいまでは前を向きすぎちゃって、今度フランスに行くんですよ(笑)。『国際防災フォーラム』でスピーチをして欲しいってことで、『ユネスコ』から招待を受けてね。日本代表ですよ? すごくない? 昔だったら絶対断ってましたけどね(笑)。だけど映画になったことでとても嬉しい反響もいただいていたし、私の経験が少しでも役に立つならって、参加することを決めたんです。
もちろん、そうやって前向きになれているのは私だけじゃなくて、街自体も、とても前向きになっているんです。映画にも出てくるけど、Gakuvoの子たちが何人か移住してきてくれていてね。その子たちがとても頑張っていて、それぞれの仕事はもちろん、気仙沼太鼓だったり七福神舞だったり、地元の伝統文化にも積極的に参加してくれているんです。ここで結婚して家族を作った子たちもいて、もう孫が一気に増えたみたいな感じ(笑)。気仙沼はいま、そんな移住者の若い子たちが、とっても力強く活躍する街になっています。うちがそのきっかけになれたんだとしたら、とっても嬉しいですね」。

映画はまだまだ上映中。お近くの劇場で、是非

と、監督である風間さん、そして作中の主人公とも呼べる女将の一代さんのお話を交えてご紹介してきた、映画『ただいま、つなかん』。初公開は、2023年2月。ですが本作は自主上映映画として、作品に何かを感じた上映主さんのもと、いまも全国各地のミニシアターなどで順繰り順繰り上映されています
もちろん、別企画で『唐桑御殿つなかん』にご同行いただいた水風呂ちゃんも鑑賞済み。以前からサウナ関連で一代さんとは交流があったとのことですが、その太陽のような人柄を知っていたからこそ、作品は胸に響くものがあったそう。
そんな、心を紡ぐ民宿『つなかん』の物語。みなさんもお近くで上映の際は、可能な限り足を運んでみることをおすすめします。会場で販売されている各種グッズもお見逃しなく!

ただいま、つなかん
語り:渡辺 謙
監督:風間研一
音楽:岡本優子
URL: https://tuna-kan.com/


Credit
Photo_Shuhei Nomachi, Yuki Araoka, Satoshi Yamamoto
Text & Edit_Satoshi Yamamoto


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